
「普通で最高においしい焼きそばをつくろう!」そんな意気込みでスタートしたのが「dancyu食堂」焼きそばプロジェクトです。麺は小麦粉の配合や太さまで指定したオリジナル。具材の内容、ソースの味、焼き方などもゼロベースから本気でつくりました。果たしてどんな焼きそばが完成したのか。渾身の開発ストーリーを2回にわたってレポートします!
「オリジナルの麺料理を開発したいんです。一緒に考えてくれませんか?」
東京駅構内の「dancyu食堂」を運営する「CLASSIC.INC」の副社長、姫野慶太さんから編集部にそんな申し出があったのは2025年の初夏のことだ。生姜焼きや唐揚げ、焼売など食欲中枢をダイレクトに刺激するメニューがそろうdancyu食堂だが、これまでメニュー化していなかったのが麺料理。その開発に乗り出したいというのである。
「喜んで!」と手を挙げたのは杉下春子部長と鈴木智也編集部員の麺好き2人だ。早速、立ち上げ会議が開かれた。参加者は姫野さんと編集部の2人のほか、「dancyu食堂」料理長の佐藤正光さん、前料理長でフードクリエイターの松浦寛大さんなど総勢8人。初回のテーマは「どんな麺料理にするか」である。
実は、CLASSICサイドにはかねてから温めていた企画があった。それはオリジナルパスタの開発だ。元々イタリアンで腕を鳴らしていた佐藤さんにとってパスタは得意分野。これを食堂のメニューに生かせないかと考えた。
一方、編集部が提案したのは「焼きそば」だ。過去にも何度か特集記事を組み、読者からの反響は上々。
「パスタも人気は高いのですが、焼きそばはより生活に密着して日常の延長で食べてもらえる。お子さんからお年寄りまで世代を問わずに楽しめる点でもdancyu食堂のメニューにふさわしいのでは?」との編集部スギシタの説明に、大きく頷く姫野さんと佐藤さん。パスタは第二弾としてリザーブし、オリジナルの焼きそばづくりがスタートしたのである。


焼きそばと一口に言ってもソース味、塩味、醤油味などがあり、麺の太さや具材もいろいろだ。そこで、編集部で食いしん坊倶楽部のメンバーに緊急アンケートを実施。焼きそばの理想像を聞いてみた。その結果、味付けはソース味がダントツで8割以上が支持。麺の太さは中太麺派が半数以上を占め、太麺派がこれに続いた。
「つまり、多くの人が求めているのは王道のソース焼きそばなんですね。じゃあ、それをオンリーワンのものにするにはどうしたらいいのか。みんなで話し合い、コンセプトに決まったのは『麺が主役の焼きそば』です。具なしでも成立するほど麺そのもののおいしさを追求した究極のソース焼きそばをつくろうという方向で意見が一致しました」と姫野さん。
ここから開発チームの試行錯誤が始まる。
麺は既製品でなくオリジナルであることが条件だ。特注麺を手がける製麺会社数社からアンケートで人気だった中太麺を中心にサンプルを取り寄せ、まずは試食。その数、20種類超!
「同じ中太でも丸麺と角麺があり、ストレートか縮れか、生麺か蒸し麺かなど膨大な選択肢があるんです。さらに、小麦粉の配合で食感や風味は大きく変わります。すべて試食しましたが、麺の方向性を決めるのが難しかったですね。どれもおいしくて(笑)」(姫野さん)



試食を重ねた上で、仕入れ先は「中沢製麺」を選定。200軒以上の飲食店に業務用麺を卸す栃木県の製麺会社だ。小ロットでも小麦粉の配合など細かく柔軟に対応してくれるところが決め手になった。
オーダーした麺のタイプは「中太角麺」。
「中太麺はもちもちした食感と歯切れのよさが両立しますし、角麺なら表面積が広いので焼いたときの香ばしさが際立ちます。見た目にも存在感があるので、麺が主役の焼きそばに最適だと考えました」(佐藤さん)
使う小麦粉は国産小麦をベースにオーストラリア産小麦をブレンド。もちもち感とコシの強さを兼ね備えた布陣だ。
ほどなく試作品が出来上がり、現地視察を兼ねて佐藤さん、松浦さん、スギシタ、スズキの4人で「中沢製麺」の本社へと遠征。試食をしてから、中澤健太社長と厚み・切り幅などを再度、綿密に打ち合わせした。もう少し旨味を出したいと伝えると、「全粒粉を少し加えては?風味がよくなり、ソースを吸いやすくなりますよ」と中澤社長から提案があり、もう一度、試作品をつくってもらうことに。
「工場見学もさせてもらったのですが、小回りのきく規模感や働くみなさんの姿が自分たちの目線に近い。安心して任せられると確信しました」と編集部スズキ。麺の骨格が決まり、プロジェクトは大きく前進した。

麺の開発と同時進行で、ソースの選定も進められた。まずは十数種類を揃え、それぞれの味の特徴を把握した上でブレンドしては試すという地道な作業の繰り返し。単においしいだけでなく、麺の風味を引き立てる味であることもポイントだ。
一方、具材も徹底してオリジナリティを追求している。アンケートで一番人気だった豚肉は加えるものの、生を炒めるのでなく煮豚にアレンジ。
「生で入れると水分が出やすいのが煮豚に替えた理由の一つ。もう一つは食べ心地を軽くするため。豚の脂は旨味になるのですが、後半で食べ疲れしやすいんです。煮豚にすれば程よく脂を抜けるので、食後ももたれません」と佐藤さん。
野菜については定番のキャベツ、もやし、玉ねぎを大胆にもすべて省くことに。
「豚肉と同様に、生野菜が入ると水分が出て麺がべちゃっとしやすいんですね。具材を削ぎ落とせば『麺が主役』のコンセプトを強調できるとも考えました」
そんな振り切った焼きそばに、「麺だけで十分おいしい!」と称賛の声が広がったが、一方で、「野菜を省くと食感が単調になって食べ飽きる」との意見も。どうしたら飽きずに食べてもらえるのか――。沈黙が続く試食会場の空気を打ち破ったのはスギシタの一言だ。
「ケールを乾燥させて使うのはどうでしょう。あるレストランで出てきたのですが、水分は抑えながらキャベツの代わりにできるし、青海苔のような風味があるから焼きそばに合いそう」
日々試食に歩く編集者だからこそのアイデアに、「それ、いいですね」と佐藤さんも目を輝かせ、早速試してみることになった。
初夏に開発が始まってから延べ6ヶ月。試作と試食を繰り返す合間には、焼きそばを食べ歩いて研究する“自主練”も各自で行い、いよいよ完成に近づいたdancyu食堂の究極の焼きそばプロジェクト。
その成果は年を跨いだ2026年1月、まずは食いしん坊倶楽部メンバー4名にお披露目されることになった。果たして反応はいかに?報告は後編で!
文:上島寿子 写真:姫野慶太(CLASSIC INC.)、海老原俊之