
映画「国宝」でも話題となった糖尿病。ほんの50年ほど前までは「見つかったときは手遅れ」な病気でしたが、今は研究も進み、適切に対処すれば、コントロールが可能になってきています。糖尿病で悩まないための正しい知識を、食いしん坊倶楽部メンバーで医師の三浦雅臣さんにうかがいました。
糖尿病は、食いしん坊のみなさんの中には、気になる人が多いテーマかもしれませんね。まずは「糖尿病」と呼ばれる病気がどんなものなのかをご説明しておきましょう。
「糖」は体を動かすエネルギーとなる大切なものです。食事でとったものが糖に分解されたり、肝臓で合成されたりして、血液にのって体のあちこちに運ばれます。糖はインスリンというホルモンの働きで細胞に取り込まれ、エネルギーとして使われます。
血液中の糖はインスリンのおかげで一定の濃度に保たれています。しかしインスリンを分泌する膵臓の機能が落ちてインスリンが不足したり、インスリンそのものの効きが悪くなったりすると、血液中に糖がたまってしまいます。これが高血糖で、この状態が続くとさまざまな合併症を引き起こす糖尿病となってしまうのです。
糖尿病には1型と2型があることはご存知の方も多いと思います。1型は免疫異常によるインスリン不足によって起こるもので、注射でインスリンを補う治療が必要となります。子どもでも大人でも発症することがあります。
2型はインスリンの分泌の低下や、インスリンの働きが落ちて起こる糖尿病です。遺伝的な要因に加え、インスリンの働きを阻害する肥満などの生活習慣が主な原因とされ、食事や運動習慣を見直してコントロールしていくことが必要となります。糖尿病の9割以上がこの2型糖尿病といわれています。
血糖値が高くなると、体にはどんな変化が現れるのでしょうか?実は高血糖になっても自覚症状はほとんどありません。しかし血糖値の高い状態を放置してしまうと、下記のような糖尿病の前兆が少しずつ現れ始めます。思い当たる症状、ありませんか?
・尿の回数が増える
・のどがかわく
・ぼーっとする
・疲れやすくなる
・体重が減る
・手足がしびれる など

トイレの回数が増えるのは、腎臓が余分な糖を排出しようとして、血液中の水分と一緒に排出するからです。おかしいと思って泌尿器科を受診したら、じつは糖尿病だったという事例も。水分を排出してしまうわけですから、結果、のどがかわくようになります。
ぼんやりしてしまうのは、脳のエネルギー源である糖がうまく取り込まれないため。疲れやすくなるのも、筋肉にエネルギーがいきわたらないことが原因です。
体重が減るのも実は糖尿病の前兆です。肥満が原因のひとつなのに、なぜ?これも糖がうまくエネルギーにならないため、エネルギー不足を起こすからです。手足のしびれは高血糖が続いて血管がダメージを受け、末梢神経に栄養が届かないことで起こります。これらの症状が思い当たる場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
血管が大きなダメージを受けることになるのが糖尿病の怖いところで、さまざまな病気の発症リスクを高めてしまいます。私たちは糖尿病による代表的な合併症を、その頭文字から「しめじ」「えのき」と呼んでいます。
「し」=神経障害[しびれや痛みなど。障害が出る場所によって症状は異なる]
「め」=網膜症[視力が低下、最悪の場合、失明の場合もありうる]
「じ」=腎臓障害[腎臓の働きが失われ、透析が必要となる可能性がある]
「え」=壊死(えし)・壊疽(えそ)[皮膚や皮下組織が死滅(壊死)し、黒変、腐敗(壊疽)して足を切断するケースも]
「の」=脳梗塞[脳の血管が詰まる。麻痺などの障害が残ることもある]
「き」=虚血性心疾患[心筋梗塞、狭心症など]
いずれも命を脅かす病気であり、一命を取り留めたとしても生活の質を大幅に落としてしまうものばかりです。健診で血糖値が高いといわれたら、放っておいてはいけないのです。
とはいえ、生活習慣を上手にマネジメントしていくことで、今までの生活を大きく変えずに暮らしていくことは可能です。高血糖であっても、自分の状態を正しく知って、前向きに改善していけばよいと思います。
次回は糖尿病を予防、改善するためのヒントについて考えていきたいと思います。

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2014年東京大学医学部医学科卒業。2021年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了・卒業。糖尿病や肥満症の研究を専門に、最近では老化や睡眠、味覚についても探究を深める日々。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock