心ふるえる酒2026
【変わる!新潟の酒】異業種からスペシャリスト集結!米の個性を生かした端正な味わいを目指す「葵酒造」

【変わる!新潟の酒】異業種からスペシャリスト集結!米の個性を生かした端正な味わいを目指す「葵酒造」

2026年日本酒dancyu「出会えてよかった!心ふるえる酒」特集では、“淡麗辛口”の看板のもと、全国一の蔵数を誇り、時代を築いてきた新潟に注目。 この銘醸地で今、若き作り手たちが自由闊達に才能を咲かせている。今回は、老舗蔵を事業承継した女性蔵元と若き杜氏の新チームで、エレガントでモダンな酒を醸す「葵酒造」をご紹介します。

桃太郎のような少数精鋭が強み

「どうしても日本酒の仕事がしたい!」。その一心で酒蔵を買った女性がいる。新潟県長岡市で160年の歴史を刻んできた旧高橋酒造を2024年秋に承継し、2025年に「葵酒造」として再始動させた、三重県出身の青木里沙さんだ。シンガポールの金融街で働きながら、ふと立ち止まる。

ワインも日本酒も好き。いつもお酒のことばかり考えている。それならいっそ仕事にしてしまおう。かの地で、日本人としてのアイデンティティーも再認識した。ならば迷わず日本酒だ。理想の「メゾン」を築くため交渉に交渉を重ね、たどり着いたのが長岡の赤煉瓦蔵だった。

集合写真
蔵の名前「葵」を冠した新しいもろみタンクの前で。蔵元の青木さんと醸造責任者・阿部さん、マーケティング責任者・土居さんは、阿部さんと山形の蔵の元同僚。青木さんからの白羽の矢を二人とも二つ返事で受け止めた。弟の魁人さんは米作りのスペシャリストでムードメーカーとしての一面も。

「まるで桃太郎みたいですよね」と笑う青木さんのもとに馳せ参じたのは、30代のプロフェッショナルたち。山形の酒蔵の杜氏だった阿部龍弥さん、大手広告代理店出身の土居将之さん、そして米農家で実弟の青木魁人さん。経営、醸造、表現、米作りがフラットに混ざり合い、価値観を素早く共有して形にできる。それがこの蔵の強みだ。

目線をしっかり合わせながら4人が目指すのは、低精白米で造るエレガントな酒。「背筋がピンと伸びる、凛としたお酒。そこに軽やかさと奥行きを共存させたい」と口を揃える。米をあまり磨かないのは、自ら作った米への愛しさからだ。

幸い、地元の人、近隣の蔵、自治体とみんなが歓迎してくれた。「銘醸地だからこその懐の深さがある」。新生の蔵は、長岡という豊かな土壌に、しっかりと根を張り始めている。

阿部さん
かつていた蔵では高精白米を用いて澄んだ味わいの日本酒を造ってきた阿部さんだが、低精白米を使う葵酒造でもその手腕を遺憾なく発揮。「お米の可能性を最大限引き出すために、浸漬時間の調整、丁寧なもろみの仕込みなど、今できることはすべてやっています。去年つかんだ葵らしさに今年は奥行きも加えていきたい」。

酒を醸すことは、人を醸すこと

新潟に興った三者三様の蔵の歩み。そこから見えてきたのは、日本最多の90蔵を擁する銘醸地が培ってきた揺るぎない地盤だ。「万石蔵がある新潟には強固な土台がある。だからこそ、僕のような小さい蔵が自由に動ける」(越後伝衛門・加藤さん)。さらに、「飲食店も酒屋も世代交代が進み、ともに新潟の酒シーンを盛り上げるうねりが加速している」(阿部酒造・阿部さん)という言葉通り、確実に瑞々しい感性の連鎖が生まれている。異業種出身者の蔵が持ち込む独自の価値観が風となり、新しい土を運び、新潟の土壌をさらに豊かにしていく。酒を醸すことは、人を醸すこと。挑戦者を拒まず、次代を担う表現者たちを温かく包み込む新潟は、日本酒の未来を育む、世界一大きな揺りかごなのだ。

日本酒3本
左から、葵酒造の2025BYを象徴する「Maison Aoi」Nouveau 720ml4,400円、和の色と味わいを重ね合わせる「Color」シリーズ 水縹(みなはだ) Unfiltered 同3,960円は、酒米、出羽燦々のやわらかさと中距離型の余韻が魅力。低精白ながら奥ゆかしい米の旨味が光る同シリーズ 白菫(しろすみれ) 同3,960円。
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A4変型判(160頁)
2026年2月5日発売/1,800円(税込)

文:浅井直子 撮影:伊藤菜々子

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