
2025年もあと少し!ということで、1年中朝昼晩と食べに食べまくったdancyu編集部員が、今年特に感動した一皿を紹介。編集部のニッタが選んだのは、スペイン・リオハ州ログローニョのバルで食べたマッシュルームのピンチョスです。

「これだよ、こういう店で、こういうのが食べたかったんだ!」
と心の中で思わずに叫んでしまった。
ワイナリーツアーで初めて訪れたスペイン北部ラ・リオハの州都、ログローニョ。世界的な美食都市、サン・セバスチャンを、ぎゅぎゅっとコンパクトにしたようなサイズ感の街で、旧市街にあるラウレル通りは、ワイン好きの食いしん坊にとってはパラダイス。狭い路地を歩けば右も左もバル、バル、バル!旨そうな芳ばしい香りがストリートに充満しまくりで、路上ではみんなワイン片手に何かしらつまんでワイワイ楽しそうにしている。数ある店の中でも、特に心打たれたのが「ログローニョに来たら真っ先にココへ行くべし」と地元民が口を揃える「BAR SORIANO(バル・ソリアーノ)」。1972年の創業からマッシュルームのピンチョス一択という潔いメニュー構成で、選択肢がそもそもないから、店に入ると、何を?ではなく、いくつ?と個数を聞かれる。ピンチョス1個1.7ユーロだったから日本円だと300円ちょっと。ワインはどれも地元リオハのものでグラス1杯300円ぐらい。マ・マ・マジですか?と安すぎて思わず店内の黒板を3度見してしまった。


「こりゃ全人類が好きだわ、間違いなく」。店の奥の鉄板で焼かれる風景を見たら、誰もがそう思うであろう。ズラリと整列する5cmほどの巨大マッシュルームと、鼻から脳天に突き抜けるニンニクの鮮烈な香り。両面に焦げ目をつけながら芳ばしく焼き上げていき、カサの内側の面を上にしたら、そこにガーリックオイルをたっぷり注ぎ入れ、3段に重ねたら、エビを突き通した串でマッシュルームの真ん中を刺して出来上がり。

「熱いうちに食べると最高だよ」とのことで、店の外のテーブルで頬張ると、噛み込んだマッシュルームからジュースが勢いよくあふれ出た。芳ばしいガーリックオイルと、エビの旨味エキスが絡んで恍惚となり、下で支えているフッカフカのパンに、ガーリックオイルがジュワリと沁み込んでいく。これがたまらなく旨いのだ。組み合わせ自体は正直言って何てこたぁないのだが、このピンポイントの焼き具合と、滴るほどのガーリックオイルの量と、旨味が濃いエビと、パンの厚みとフッカフカ具合が完璧なのだろう。これ以上でも、これ以下でもない、50年以上愛されているというのも頷ける味わい。隣のテーブルで飲んでいた元サッカースペイン代表イニエスタ似のおじさんが「ナンバーワン・イン・ザ・ワールド・マッシュルーム!」とカタコトの英語でなぜか誇らしげにサムズアップしてきたが、確かに世界一だ。間違いない。説得力が違う。


飲んだワインも素晴らしかった。同じリオハ州の小さな町バダランで家族経営しているワイナリー「マルティネス・アレサンコ」のロゼ。酸味がキリッとしていて、気持ちのいい初夏の夕暮れにぴったり。軽快で水みたいにスイスイ飲めちゃって、あっという間になくなっていた。ボトルで2,000円いかないぐらい。バルだと、こういう安い地ワインが一番沁みる。

スタッフ?オーナー?の陽気なおじさんに「ナンバーワン・イン・ザ・ワールド・マッシュルーム!」と伝えたら、「当然だろ!」と言わんばかりの顔でサムズアップ。いい表情だったなぁ。それにしても、右も左も、店内も路上も、みんなマッシュルームを頬張って、旨い!旨い!と言いながらワイン飲んで笑ってた。本当にいい風景だったなぁ……
……とログローニョの写真を見返しながら、この原稿を書いている2025年の師走。
いつかまた行きたい。
目的地は、
ナンバーワン・イン・ザ・ワールド・マッシュルーム。

文・撮影:仁田恭介