
2025年もあとわずか!今年を締めくくる一皿として編集部・藤岡が思い出すのは、たっぷり溶かしたバターで鶏胸肉を焼いた、リッチで香り高い「バターチキン」です。
素晴らしくおいしい料理を食べて歓喜に包まれ、ハッピーゲージが爆上がりしたら、その幸せ効果で太らない――そう信じている、dancyu編集部の藤岡です。昔、フレンチとスイーツが大好きでよく食べるのにスリムで美しい友人がいまして、彼女が「おいしくて幸せだったら太らない」と断言するので、もう、その素敵な考えについていくことに決めたのです。
2025年の一皿を考えたときに真っ先に思い浮かんだのは、そんな美味のハッピーゲージがふりきれそうになる料理、六本木「オステリアナカムラ」のバターチキンでした。卵液をからめた鶏胸肉を焦がしバターで焼いただけの、ごくシンプルな料理なのですが、これがなかなかすごい。バターをたっぷり纏ったしっとりとした鶏胸肉を口に運ぶと、焦がしバターの香りと肉にからめた卵のほのかに甘い風味が広がり、脳天までバターっぽい黄色い喜びが駆け上ります。初めて食べたとき、なんだか興奮して、脳内に陽気なアメリカンロック、「ジャスト・ライク・パラダイス」(デヴィッド・リー・ロス)が流れたものです。その天に抜けるような官能にひたるために、思わず目をつぶりました。
雑誌『dancyu』の2025年秋号は「舌も心もとろかすバターとチーズ」特集なのですが、まさにこの特集を代表する一皿が、このバターチキン。舌も心もすっかりとろかされました。レシピ記事のトップで紹介しており、本当にお宝級レシピだと思っています。普通のスーパーで買える材料しか使わないし、余熱で火入れをするので誰でも失敗なくつくれるんです。
焦がしバターを使う調理法はフランス料理に多いですが、バターを加熱するときはハシバミ色をキープし、絶対にそれ以上焦がしてはいけないと言われます。でもイタリアンはちょっと違うみたい。
「焦がしバターって、焦がしちゃいけないんですよね?どういう塩梅なんですか?」と中村直行シェフに聞くと、
「えっ、別に気にしなくて大丈夫だよ」と拍子抜けするお返事。
「焦がしていいんですか!?」
「焦がしていいっていうか、まあ、焦げちゃうよねえ。でも旨いよ。アハハ!」。
中村シェフがそうおおらかに笑うので、自分でつくるときも安心して焦がすことができました。
むしろここ、バターの焦げを恐れて最初の火入れをしっかりしないと香ばしさが出ず、物足りない仕上がりになるようです。
バター好きならぜひぜひぜひぜひ、お試しください!
撮影:合田昌弘 文:藤岡郷子(dancyu編集部)