
2025年ももうすぐ終わり。編集部員たちは今年もよく食べ、よく飲みました。その中で、編集部スズキの記憶にいちばん鮮明に残っている一皿は、新富町のイタリアン「PRIMO PASSO」のトマトのパスタです。
「数日前に3度目を食べましたが、本当においしい。痺れました」
夏号の企画相談の際、ライターの浅妻千映子さんが教えてくれたのは、新富町「PRIMO PASSO(プリモパッソ)」のトマトのパスタだった。
浅妻さんといえば、これまでのパスタ特集で、どれだけのトマトパスタを食べてきたのか、もはや数えきれないはず。その浅妻さんが「痺れました」と言い切る一皿。……それはもう、気にならないわけがない。

プリモパッソは、コース12品のうち5品がパスタという、パスタ好き大歓喜のお店。改めて考えても、なかなか攻めた構成だと思う。そのパスタ尽くしのコースの中で登場する、このトマトのパスタが、とにかくすごかった。
見た目は、黄金色を帯びたオレンジ色のソース。具材は一切なし。美しすぎる、洗練された静かな佇まい。一口食べた瞬間、「トマト、うまっ!!!」と、思わず心の中で叫んでしまう(笑)。
口いっぱいに広がるのは、鮮烈なトマトの香りと旨味。もう一度確かめたくなって、今度はソースだけを少しすくって口に運ぶ。酸味、甘味、旨味……いろんなトマトの顔が一気に押し寄せてくる。この穏やかな見た目の、一体どこに、こんなパワーが隠れているのか。不思議に思いながらも、フォークは止まらない。そして気づけば、皿は真っ白。
そう、なんせ12皿のうちの1皿なわけだから、食べられるのは実質2~3口。あっという間に終わってしまうのだ。おいしさの直後に襲ってくる、この喪失感。ああ、もっと食べたい……(もちろん実際のコースは、このあとも最高の料理が続くので、満足度は非常に高い)。

そんなわけで、「このトマトパスタを、お腹いっぱい食べたい!」という欲望を抑えきれず、dancyu2025年夏号「野菜料理」特集では、藤岡智之シェフにレシピを教えてもらった。
ポイントは大きく2つ。
まずは、赤と黄色、2色のミニトマトを使うこと。赤の甘酸っぱさに、黄色の甘さが加わることで奥行きが生まれ、コクを深めてくれるそう。


そしてもう一つが、イトラーナ種のオリーブを使ったオリーブオイルを使うこと。イトラーナ種、聞きなじみのない方も多いかもしれないが、ネットで検索すると見つかるので、ぜひ調べてみて欲しい。ほんのりトマトのような香りがして、相性の良さを確信できるオイルです。
シェフ曰く、「トマトももちろん重要だけど、もしかするとそれ以上に大事なのが、このオイルかもしれません」とのこと。
ちなみに店では250mlの小瓶を3日で使い切るそう。そりゃあ、香りも味も抜群なわけだ。かなりの量のオリーブオイルを入れているのに、あんなに軽やかな味わいになるのはいまだに不思議なところ。
かくして、この夏はミニトマトをスーパーで見つけては、何度もつくった。
こうして原稿を書いていると、また食べたくなってくる。今から来年の夏が待ち遠しいな~なんて。まだまだ「日本酒dancyu」と格闘中なのに(年明けすぐ校了!2月発売ですよ)まったく気が早い話である。


写真:木村拓 文:鈴木智也(dancyu編集部)