
忘年会や新年会で、お酒を飲む機会が多くなる年末年始。楽しくてつい飲み過ぎてしまうこともしばしば……。肝臓や胃腸の調子も気になるけれど、なかなかやめられない「お酒」との向き合い方を食いしん坊倶楽部メンバーで医師の三浦雅臣さんにうかがいました。

「酒は百薬の長」などという言葉もありますが、体にとって、飲酒はそれなりに負担になるものです。
性別や年齢、体質など、人によって差はあると思いますが、飲み過ぎて二日酔いで頭痛やだるさに悩まされたことのある人は少なくないのではないでしょうか。短時間に過度の飲酒をすれば、急性アルコール中毒につながる場合もあります。また長期にわたる大量の飲酒は、生活習慣病や肝疾患、がんなどの病気を引き起こす原因になりえますし、ひどい場合はアルコール依存症を発症して、仕事や家庭など生活面で影響が出ることもあります。
病気だけではありません。飲み過ぎで運動能力が低下したり、意識状態の変化、集中力や記憶力、注意力などが低下することでけがや事故が発生したり、物をなくす、他人とトラブルになるなどのリスクも考えられます。お酒を飲むことで、ついついつまみを食べ過ぎてカロリーオーバーになってしまうこともデメリットのひとつかもしれません。
もちろん飲酒によるメリットも多くあります。楽しい気分になってストレス解消になる、食欲が増進する、食事がおいしくなるなどです。飲酒が原因で他人とのトラブルになることもあるかもしれませんが、反対に人間関係が円滑になることもあるでしょう。上手につきあうことが大切です。
そもそも人間はなぜ酒を飲むようになったのでしょうか。例えば木になっていたりんごが落ちて腐敗、発酵しても食べられるようになれば、食料が増えるわけですから、生存競争に有利になります。動物の進化の歴史の中で、人間はアルコールの分解能力を獲得し、生き延びてきたわけです。オランウータンにはこの能力はありません。飲酒のデメリットだけを考えれば酒は飲まないのが一番かもしれませんが、せっかく人間が神様からいただいた能力ですから、これをもっと生かす方向に持っていけるとよいのではないかと思います。そのためには、デメリットがメリットを上回らない、つまり過度な飲酒をしないということが大切なわけですが、ではこの「過度」とはどのくらいのことをいうのでしょう。
自分がどれだけのアルコールを摂取したのかが具体的にわかる、自分の酒量を「見える化」できる計算式がありますので、紹介しましょう。
飲酒量(ml)×アルコール度数(%)÷100×0.8=純アルコール量(g)
これがその数式です。
例えばアルコール度数5%のビール1缶500mlに含まれる純アルコール量は、500×5÷100×0.8=20で、20gということになります。同じく15%の日本酒1合180mlなら、21.6g、40%のウイスキーダブル1杯60mlなら19.2gです。厚生労働省では、生活習慣病のリスクを高める飲酒量(1日あたりの平均純アルコール摂取量)を、女性では20g以上、男性では40g以上としています。これを超えない範囲の飲酒であれば、健康を害するリスクはそれほど大きくはない、飲んでもOKな許容範囲の目安ということです。「そんなに少ないのか!」とがっかりされたでしょうか?それとも「意外に飲めるな」とほっとしたでしょうか?健康作りを考慮した飲酒のためには、自分がどれだけの純アルコール量を摂取したかを把握し、調整していくことが大切になります。酒量を「見える化」すると、ストレスがたまって飲み過ぎていたとか、眠れなくて寝酒が進んでしまったなど、自分を知るきっかけにもなるかもしれません。
お酒を飲んですぐ顔が赤くなってしまう人はアルコールの分解能力が低いということですので、この量よりも少ない量が適量となります。ちなみに海外にも同様のガイドラインはありますが、アルコール分解酵素の活性が低い日本人に比べ、高い数字になっている国もあります。
酒飲みの人たちの中には、「飲み会の前や後に、二日酔い対策のドリンクを飲んでいるから、ちょっとくらい飲み過ぎても大丈夫!」という人もいるかもしれません。実際、薬局やコンビニではたくさんの種類のドリンクが並んでいます。
でも実はそうしたドリンクで、きちんとしたエビデンスのあるものはあまりありません。もちろん含まれる成分の中に、効果的なものがある場合もありますが、そのドリンク1本の中には他にもいろいろなものが含まれていて、純粋にその有効成分だけを摂取するわけではないのです。結局は解毒作用を担う肝臓に負担をかけることとなる場合が多いので、私はあまりおすすめはしません。どんなドリンクを飲んでも、摂取したアルコール量が減ることはないのです。気休めくらいに考えておいた方がよいでしょう。
健康を守りつつ、楽しくお酒を飲み続けるためには、まずは自分がいつもどれくらいのアルコールを摂取しているのかを把握し、自分の適量はどのくらいなのかを知ることが大事。そのうえで、その範囲内でお酒を楽しむ方法を考えるとよいと思います。
次回は「お酒を上手に楽しむ具体的なアイデア」についてお話しします。

東京大学医学部附属病院 糖尿病・代謝内科 助教。2014年東京大学医学部医学科卒業。2021年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了・卒業。糖尿病や肥満症を専門に、最近では老化や睡眠、味覚についても探究を深める日々。
編集:出口雅美(maegamiroom) 文:久保木 薫 写真:Shutterstock