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雷門仲通りを駒形方面に歩いて行くと、通りの先からバンッバンッ!と威勢のいい音が聞こえてくる。地元で長く愛される手打ちラーメンの店、「馬賊 浅草本店」だ。「僕は昔から昼飯を食べに来てるし、社員たちもこの店が大好きなんですよ」と熊沢さん。店の前に着くと、入口横のガラス窓から麺打ちの作業が眺められる。

「うちの生地は柔らかいから製麺後10分ももたない。だから注文が入るごとに手打ちするんです」と語ると、店主の恒吉誓一さんは魔法のような手捌きで麺を打っていく。
テーブルに運ばれてきたのは、担々つけ麺。馬賊の名物である担々麺に使われる胡麻だれをつけ汁に使った人気のメニューだ。小麦の香りが高い麺は、むっちりな食感とパツンと張ったコシがたまらない。甘味と酸味が程よいつけ汁は胡麻の風味が濃厚で、それが手打ちの麺にしっかり絡んで箸が止まらない旨さとなる。汁の中にはゴロンとした角切りチャーシューも入って、食べ応えも満点だ。

「夏場だったら、僕は“ばぞひや”一択ですね(笑)」と熊澤さんが笑顔で語るのが、“ばぞひや”こと馬賊冷し。こちらはボリューム満点の具材がのった冷し中華で、冷やして締めているので麺の食感が一層際立つ。暑い季節が訪れたなら、ぜひとも食べに行ってほしいパワフルな一皿だ。


アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ