私の行きつけ~住む町の旨い店案内~
【教えて、浅草の行きつけ】繊細なフレンチとやさしい味わいのナチュラルワインでくつろぐ料理店~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

【教えて、浅草の行きつけ】繊細なフレンチとやさしい味わいのナチュラルワインでくつろぐ料理店~「釜浅商店」熊澤大介さんの紹介

その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年秋号では、合羽橋で四代続く料理道具店を営む「釜浅商店」店主・熊澤大介さんに、浅草のとっておきを案内してもらいました。

この連載で先に紹介した観音裏「トリビアン」から、しばらく路地を北へ歩くとその店はある。何の変哲もない民家のような佇まいで気付かぬうちに通り過ぎてしまいそうになるが、ここがフレンチとナチュラルワインの店「しみいる」なのだ。

「釜浅商店」店主・熊澤大介さん
「しみいる」のカウンターでくつろぎのひと時を過ごす、「釜浅商店」店主・熊澤大介さん(右)。
料理
料理はアラカルトで注文できる。二人でシェアしてちょうどいいぐらいのポーションで、一人分ずつ盛り付けて出してくれる。
看板
観音裏・雷5656会館の向かって左側の路地を千束方面にしばらく歩いたところに「しみいる」はある。

「ここが開店して間もない頃だったかな。妻と二人でふらっとワインバーみたいな感じで入ってみたら、料理も雰囲気も素晴らしくてね。それ以来通うようになった。うちの家族も大好きで、長女の誕生祝いもここでやりました。最初に来た頃は10代だった娘も酒を飲める年齢になって、この店でワインを一緒に楽しめるのは感慨深いですね」(熊澤さん)

シェフの椿豪さんが手がける料理はフレンチをベースにしながら、日本の食材の旬を鮮やかに投影した繊細で綺麗な味わいが特徴だ。「ここに来たらシェフのお薦めを食べることが多いけれど、高い頻度で注文するのが季節ごとに素材が変わる野菜のテリーヌにスープ・ド・ポワソン。あとは肉料理も絶品です!」と熊澤さん。この日のメインは、“京都七谷(ななたに)鴨のロティ マデラ酒のソース”を注文した。丁寧な火入れで供される鴨肉は、旨味が濃く脂の甘味が上品。ガルニの野菜がまた抜群だ。

穴子と焼きなすときゅうりのテリーヌ なすとごぼうのピューレと
季節ごとの旬の野菜を使うテリーヌは必ず注文したい一皿。この日は、“穴子と焼きなすときゅうりのテリーヌ なすとごぼうのピューレと”を提供。
京都七谷鴨のロティ マデラ酒のソース
メインは肉と魚で5~6種類を揃える。この日は“京都七谷鴨のロティ マデラ酒のソース”をチョイス。

ソムリエである妻の澄子さんが選ぶのは、やさしい味わいのシェフの料理に穏やかに寄り添うナチュラルワイン。料理を何皿も食べ進めてスルスルとボトルワインを空けても、後味は軽やか。なんだか心身ともに浄化されていくような食べ応えなのだ。

9年前にオープンした頃、アラカルトで料理を頼めて気軽にナチュラルワインを楽しめる「しみいる」のようなフレンチは、観音裏にはほとんどなかったという。

「私たちはもともと浅草に縁がなくて、観音裏についてもよく知らなかったんです。だけど和の雰囲気が残っていて、昔ながらのお店がいくつもあるこの界隈の感じが、すごくいいなと思ったんです」(妻・澄子さん)

「今では観音裏にも新しい店が増えたけれど、シェフの豪さんもソムリエの澄子さんも控えめだけど熱い想いと美学を持ってる。料理も、二人のキャラクターが皿の上に表れたようで浮ついた感じがない。そういう姿勢に僕は信頼を置いているし、この店が観音裏で愛される理由なのかもしれないですね」(熊澤さん)。

右から夫でシェフの椿豪(つばき・たけし)さんと、妻でソムリエの澄子さん。
右から夫でシェフの椿豪(つばき・たけし)さんと、妻でソムリエの澄子さん。

教える人

「釜浅商店」店主 熊澤大介さん

アンティークショップや家具店勤務を経て、2004年より実家である料理道具店「釜浅商店」四代目店主に就任。リブランディングを成功させ、パリとニューヨークに支店を持つ。

店舗情報店舗情報

しみいる
  • 【住所】東京都台東区浅草4-14-1
  • 【電話番号】03-6458-1509
  • 【営業時間】18:00~23:00 土 日は13:00~22:00(中休みあり)
  • 【定休日】月曜 不定休
  • 【アクセス】東京メトロほか「浅草駅」より12分 *要予約
dancyu2025年秋号
dancyu2025年秋号
A4変型判(160頁)
2025年9月6日発売/1,500円(税込)

文:宮内 健 写真:衛藤キヨコ

宮内 健

宮内 健 (編集者、ライター)

1971年、東京生まれ。音楽誌『bounce』『ramblin'』編集長を歴任し、フリーランスの音楽ライター、編集者として長らく活動している。2010年以降「食」や「酒」に関してもテリトリーを広げ、2018年から2024年まで『dancyu』編集部に在籍。数々の特集記事の企画編集や執筆を手掛けた。