
夜のお疲れさまタイムや新幹線の待ち時間に、すこぶる旨いクラフトビールをぐびぐび。「ビアベースベアレン盛岡駅前」でのひとり飲みは、岩手県内各地から届くおいしい食材とのタッグで盛岡の夜を心地良く満たしてくれる。
盛岡への旅の際、多くの方がまず食べなくちゃ!と思うのは、冷麺、じゃじゃ麺、わんこそばの「盛岡三大麺」だろう。加えて岩手県内に20軒以上が点在する日本酒蔵の銘酒も誘いをかけるが、この先はさらなる必須アイテムとしてぜひとも、「ベアレン醸造所のビール」をそのラインアップに加えていただきたい。2003年に盛岡市内で創業して以来、地元でもっとも多く飲まれ、県内でも広く親しまれてきたクラフトビールなのだ。ロゴマークであるクマが描かれたベアレンビールの瓶や缶は、土産物店から量販店まであちらこちらで購入できるが、フレッシュなおいしさを堪能するなら5軒ある直営レストランに向かいたい。なかでも約50席と最大の席数がある2020年にオープンの「ビアベースベアレン盛岡駅前」は、文字通り盛岡駅前のロータリーに面したロケーションで、移動の合間でも立ち寄りやすいのだ。
店があるのはビルの地下1階……といってもエレベーターを利用できるので、重いスーツケースを引きずった旅人でも安心。ゆとりのあるつくりの店内にはテーブル席もあるが、ひとり飲みならタップからビールが続々と注がれる様子を目の当たりにできる、ライブ感あふれるカウンターが楽しい。ビールや料理に関して質問を繰り出すなど、スタッフとのやり取りも気軽にできる。
タップビールの揃えは、季節限定を含めて常時8種類。まずは基本となる、「Nクラシック」から始めたい。穀物のコクと程よい苦味の融合は、見事。ああ、旨い!のど越しと後味が実に清々しいのも、ベアレンビールの魅力だ。欧州の伝統を受け継いだという醸造の職人技を感慨深く思うのとともに、盛岡の水の美しさも感じられ、ひとりでも思わずにんまり。一杯だけと思っていても、また次を欲するのは確実なのだ。サイズは大小4種類から選べるので、初めてならば300mlのグラスであれやこれやと味わうのがおすすめだ。




ビールに合わせる料理は、厚いメニューを隅から隅まで眺めて熟考していただきたい。白金豚、短角牛、三陸の魚介類など県内各地の美味が多数あり、食欲をそそられる一方で迷うのは必至なので、急がばまわれ作戦で時間をかけて吟味を。
つまみは軽めにという場合は、短角牛のパテ ド カンパーニュのほかスターターのページに並ぶ品々が、程よい盛りつけ。欲張りたい向きには、小盛りを選べる品が複数揃うのがうれしい。例えば宮古産のタラを使ったフィッシュ&チップスは、Sサイズでも喜びLサイズ。自社のビールを隠し味としたサクッと揚がった衣と、ふわり絶妙な火の通し加減のタラをはふはふ頬張り、ビールをごくり……心はパラダイスに直行だ!やわらかな旨味のソーセージや具沢山のもちもちピザも量を選べるが、前沢牛のステーキや短角牛のハンバーグなどで腹をしっかり満たすがっつり勝負も愉快。
いずれの料理も風味豊かなビールとの相性を考えた味わいなので、組み合わせを相談して幸せの扉を開ける手もある。例えばスモークした宮古産サーモンとのコンビネーションで提案されたのは、褐色の黒ビール「シュバルツ」。色合いを考えると自分からは踏み出さない選択だが、シュバルツはクリーミーでマイルド。繊細ながら薫香をほんのりまとったサーモンの繊細な旨味と、ため息が出るほどきれいに溶けあった。聞けばビールの成分をふまえた科学的な裏付けをもとに、サーモンにスモークを施したのだとか。おいしさの裏では、愛ある探求が重ねられているのだ。
料理においてもっとも大切にしているのは、地元の生産者とのつながり。魚介類のほか直接仕入れる食材も多いから、鮮度も旨さも違う。そのほか乳製品を含む食材は県産品を柱とし、メニューは岩手美味博覧会といってもいい様相を呈している。秋は三陸・大槌の鹿肉、寒さが増す頃には同じく三陸・山田産のカキのグラタンや、宮古産サーモンのホイル焼きなども登場。山も海も旨いのが、岩手県なのだ。





ビール以外のドリンクも、実は多種多様。県産のリンゴのシードル各種やワイン、日本酒などなど、自社製品を含む岩手チームがずらりメニューに並ぶ。「岩手県産アカマツ クラフトジンジャーエール」や、「岩手県産イタヤカエデ クラフトコーラ」といったソフトドリンクにもそそられるが、ひとりでは多彩な顔ぶれを網羅できないのが切ない。もうこれは、何度も通うしかありませんね。
盛岡駅からは地下通路を抜ける必要があり、慣れない場合は迷路のようでとまどうかもしれないが、ほろ酔いの帰り道は問題ナシ! ビルの前に地下通路へと続くエレベーターがあるため、新幹線の出発が迫っていても慌てずに済む。ビルの1階には昼から営業の「ビアフロント ベアレン 盛岡駅前」があり、料理の数は限られるものの、ラーメンもメニューにあるのでランチでの利用もいい。また駅から車で10分の距離にある醸造所では見学をもできるので(要予約)、訪れればベアレン愛がより深まるだろう。
飲んで食べての終幕は、カウンター内でビールを詰めた缶や瓶を持ち帰れるサービスがあるのにも注目を。隣席のひとり客は、ホテルでシャワーを浴びた後に飲む……と顔を綻ばせていた。店に別れを告げた後も、幸せは続くのだ。こちらは帰りの新幹線で缶を、プシュッ。車内なので、心の中でガッツポーズ&静かにいぇ~い!!併せて求めたオリジナルの南部煎餅スナックも手が止まらなくなるほどおいしく、早々に空になった缶と袋を眺めながら、ちょっぴり後悔。もっと買えばよかったよ。次回はスナックもビールもダブルでと、未来の盛岡再訪を夢見ている。

文:山内史子 写真:松隈直樹