
食いしん坊倶楽部のLINEオープンチャット「dancyuおやつ倶楽部」で、メンバーから寄せられた美味しいおやつをご紹介!倶楽部メンバーに「夏に食べたいおやつ」を教えてもらいました。第28回は、骨董通り沿いの“菊家ビル9階”にひっそりと店を構える、「菓匠 菊家」の「水羊羹」です。
晩夏の名残りとともに紹介したい、風情を感じる逸品。
故・向田邦子さんがこよなく愛したとされる、「菊家」の「水羊羹」である。著書「眠る盃」の一節では、自らを水羊羹評論家として、こちらの水羊羹への向き合い方から味わいに至るまで並々ならぬこだわりをもって、語られている。
スプーンを入れると、スッと滑り落ちるような触感は、みずみずしい口あたりを期待せずにはいられない。口に運べば、小豆の上品な風味とともに、なめらかな喉越しで満たされていく。
水羊羹は夏季限定で、毎年、桜の青葉を添えることができる9月上旬までの販売。聞けば、「菊家」ではほかの和菓子の餡とは別で、この時期限定の水羊羹用に餡子をこしらえているそうで、丹念な作業が逸品たる所以であろう。
青山・骨董通り沿いのビル9階に構える「菊家」は、昭和7(1932)年の創業。水羊羹はもともと店頭で1個ずつのカットタイプのみを販売していたところ、近所に住まうお客さまが、水羊羹を入れるためのボウルやタッパーを持ち込むことが多く、切り分ける前のケース入りが誕生したという。
青山という一等地にも関わらず、粋なストーリーを生みだした水羊羹。風情ある姿に思いを馳せ、涼を感じてみてはいかがだろうか。
文:藤井存希 写真:MURAKEN