
東京の町焼肉は多種多様である。今回、ご紹介するのは食いしん坊倶楽部LINEオープンチャット「焼肉部」こじさんからの推薦店、堀切菖蒲園の「富吉」です。
長く東京の西側に住まっているわりには、下町や京成線沿線との心の距離は近いほうだと思う。堀切菖蒲園駅にも年1~2回はお世話になっている。もつ焼き店で焼酎ハイボールを飲んだり、大衆中華の名店(&弟子筋の気鋭店)で小さな宴会を開催したり、マイクロブルワリーにつまみを持ち込んでクラフトビールを満喫したり。だいたいその都度違う店を訪れる。
だけれど訪れるたび、看板が灯っているか確認するためについ店頭に立ち寄ってしまう。「富吉(とみきち)」はそんな心の故郷のような焼肉店だ。
長らく店の引き戸に手をかけていなかったが、先日、食いしん坊倶楽部LINEオープンチャット「焼肉部」こじさんの推薦店として名前が上がったこともあって、久しぶりにのれんをくぐらせてもらった。聞けば、先日テレビ番組で取り上げられたのを見て「久しぶりに行きたい!」となったのだとか。ちなみにその番組で『富吉』を推薦したのは実は僕。改めて「縁は異なもの味なもの」だなあ……
「富吉」は焼肉店としては少し変わった営業スタイルだ。1階のJ字カウンターには各席にガス栓がついているが、焼き台はない。注文に応じて、カウンター内の店主が焼き上げた焼肉を提供してくれる。一方、2階は調味されてはいるものの、焼く前の焼肉がエレベーターで階上まで上がってきて、客自身がロースターで焼き上げる。1階はつまみとして仕上げられた焼肉も注文できる居酒屋。2階はつまみの多い焼肉店という趣だ。自分で焼くのは2階席のみ。
「富吉」は僕が初めて訪れた90年代前半からこの営業形態だったように記憶している。だが、なぜこのスタイルになったのか、尋ねたことはなかった。
「創業は1980年。最初は炉端焼きの居酒屋として始めたんですよ。冬場の鍋が看板料理でね。カウンターにガス栓があるのは当時の名残りです」と店主の福島和明さんは当時を振り返る。
以前は喫茶店やスナックだった物件と契約し、少人数でも回せるように1階はカウンター席に仕立て、2階で寝泊まりもした。毎日足立市場に足を運んで鮮魚を仕入れ、冬場にはカウンター全席で鍋料理が楽しめる居酒屋として人気になっていった。
実は福島さんの実家は、近所で焼肉店向けの肉卸をやっていたが、初期の『富吉』はさほど肉メニューは多くなかった。あくまで海鮮や鍋料理が人気のカウンター酒場だったからだ。
「当時は実家から仕入れる肉と言えば、ホルモン鍋用の内臓肉くらいだったと思います」
地元の常連から「焼肉やってよ」と請われることも増えた。肉の仕入れも徐々に増えたが、人気の海鮮もメニューからは外せない。
「特にイカ刺しはよく出ました。自家製イカの塩辛を出すようになったのも、イカ刺しで使わない内臓のワタがもったいないから始めたんです。焼肉だから辛い方がいいかな、と思って」
そうしてメニューはだんだんと焼肉が中心になっていった。とはいえ、常連客は調理された皿を出されるのに慣れてしまっていた。焼肉に軸足を置こうとしても「自ら焼こうというお客さんはそんなに多くなかった」と福島さんも苦笑する。いまも「富吉」のカウンターでは福島さんと常連客の軽妙なやり取りが展開されているが、カウンター越しの絶妙な距離感が、1階は焼肉居酒屋、2Fは焼肉店という稀有な業態へとつながっていった。
そんなカウンターで、こじさんとスズキ氏と3人で「富吉」と言えば!の「(ハイ)ボール」(330円)を飲む。下町ならではの謎のエキスに焼酎を加え、炭酸で割ったドリンクだ。「富吉」では生ビールよりもボールのほうが注文が多い。だからサーバーにはボールがセットされていて、おかみさんがレバーを倒すとグラスにボールが注がれる。
自家製イカの塩辛(330円)とトンソク(495円)をつまみにひたすらボールをおかわりする。肉は上ハラミ(1,320円)に牛レバ(990円)、ウルテ(660円)、コリコリ焼き(塩400円)、ミノサンド(770円)などなど。
最後の締めはファンならおなじみ「カルビチジン(1,650円)」。
カルビとキムチを溶き卵で半熟状にとじた一皿で、これが白飯と抜群の相性なのだが、本日は締めの後に、店主から伺った隠れ人気メニューも投入することに。
鶏の唐揚げ(495円)だ。
「これ、メニューから外したくなることがあるんですよ。ひとつだけ仕込みが全然違うし、フライヤーじゃなくて揚げ鍋だから注文のたびに油を加熱しなくちゃいけない。でも家族連れなどに人気のメニューだから落とせないんです。お待たせするのは悪いから、忙しいときにオーダーが入ると『他にいない?これ揚げたらあと30分は唐揚げやらないよ』って注文を募ることもあります(笑)」
そんな話を聞くと相乗り注文プレイをしてみたくなる!この日われわれ3人はひたすらボールを飲みながら、他席からの注文を待っていたが、最後の1杯を頼むまで他の席から唐揚げの注文はなかった。仕方なく勇気を振り絞って「唐揚げをください!」と揚げてもらった唐揚げの旨いこと!
唐揚げを一口かじっては白飯を頬張り、白飯が口のなかで甘くなるころに再度唐揚げを追う。ガリッとした衣も、甘じょっぱい鶏肉もよい加減に揚がっていて、この日何度目かの至福の瞬間に巡り合う。ボールのつまみとして、ライスのおともとして、控えめに申し上げたとしても最高だ。
ボールをしこたま飲み、焼肉をたらふく食べて、カルビチジンで締める。そんないつもの「富吉」にこの日新たな定番が加わった。
文・写真:松浦達也
きっと二階に行く人は街の常連ファミリーなんだろうなぁという雰囲気で、一階カウンター席も常連の素敵なおじさま方が居酒屋ちっくにお酒を飲んでいるような素敵な環境。
で、お肉。ミノサンドは自分のミノの概念を覆す美味しさ。正直、ミノに興味なかったですが、ここで食べてからどの焼肉屋でもミノをきにするようになっちゃいました。
どのお肉もお手軽で美味しいお店です。
ほんとにお薦めです!
ちょっと最近テレビとかにでてしまって嬉しいような悲しいような。