
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年夏号では、京都と東京の二拠点生活をする、料理家 ウー・ウェンさんに京都を案内してもらいました。
二条通から細い路地を抜けたところにある「つろく」。京料理の名店「游美」の隣に、一品料理を気軽に楽しめる姉妹店として2020年に開店した。「この京都らしいアプローチが非日常の世界へ誘ってくれます」とウーさんはうれしそう。
弧を描くカウンターに立つのは、新橋にあった名店「京味」で腕を磨いた料理長の上田健登さん。「和食の中心である京都の味を極めたい」とこの地へ。ウーさんがここを推す理由は、「単品をその日の気分で味わえるんです。好みの料理を、お気に入りのお酒と共に。ちょっとずつあれこれ楽しむって最高じゃないですか」。
品書きには、はも造り、ひすい茄子など旬味を中心に50品ほど。「どの品も潔いくらい薄味で、素材の味がすっと浮かび上がっています」。
グジの椀物であれば真昆布と利尻昆布を用い、マグロ節で奥行きのある味わいに。「何のだしかわからないけれど美味しい、を目指しています」と上田さん。
そんな割烹を思わせる端正な品々があるかと思えば、「卯の花炒り煮」といった素朴な一品も。「猪肉の油で、ゴボウやコンニャクなど具材を炒め、『近喜』の豆腐からでたおからに、みりんを少しだけ加えています」と上田さん。豆腐の質朴な甘み、ほんのりコクのある味わいに続き、黒七味の香りがふわりと漂う気品に満ちた味わいだ。
「お客さんの好みに合わせて加減もします」と、信楽雲井窯の土鍋で炊き上げる白ご飯も絶品。「私は硬めでね。繊細なちりめん山椒との相性は京都一ですよ」と嬉しそうに話す、ウーさんの心を惹きつけてやまない。
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。最新刊は『最小限の材料でおいしく作る9つのこつ』(大和書房)。
文:船井香緒里 写真:エレファント・タカ