
その町の住人が長く通う店こそ、愛される名店に違いない。dancyu2025年夏号では、京都と東京の二拠点生活をする、料理家 ウー・ウェンさんに京都を案内してもらいました。
かつて祇園にあったうどんの名店「萬樹」の屋号を受け継ぐこちらは、土曜の昼のみの限定営業。ウーさんは平安神宮の界隈を散歩しながら「この時間を目掛けて行くのが、京都で過ごす楽しみの一つ」だとか。
“おうどんとおばんざい”を掲げるだけあり、まずは蕎麦前ならぬ“小麦前”で一献できる。おばんざい担当の久保田直美さん曰く「樋口農園など近隣で仕入れた旬の素材でメニューを組みます」。この日はきんぴら、鶏ハムなど5種。これからの季節は、万願寺とうがらしをはじめ、京都の夏野菜を用いたおばんざいも登場する。昼呑みに合うワインや日本酒も揃うのが嬉しい。
いっぽう、主役のうどんは「とにかく細い麺がおいしいんですよ。独特のコシと香りが堪らない」とウーさんは大絶賛。北海道産小麦と石臼挽き国産全粒粉を使い「独特の舌ざわりで、だしとなじみが良くなるように打っています」と店主の永田昌彦さん。お気に入りの刻みきつねは、細麺の主張に引けを取らないだしの味わいと、お揚げさんの風味が印象的。品のある調和がじつに京都らしい。
店を切り盛りするのは、ウーさんと親交の深い2組のご夫婦。本業が写真家、料理人、オランダスタイルのフラワーアーティスト……と皆さん職種はさまざま。それゆえ、4人の強みを生かしながら、日替わりのポップアップレストランや、人気講師のレッスンを日替わりで開催する。そのなかの土曜日が「じんぐうみち萬樹」の日なのだ。
美術館が多数あり、文化的な雰囲気が漂う岡崎エリア。平安神宮の正面に位置する神宮道から、京都ならではの食やアート、カルチャーを発信し続けている。
北京生まれ。1990年に来日。料理研究家としてクッキングサロンを主宰しながら、シンプルで体にやさしい中国家庭料理のレシピを雑誌や書籍、テレビなどで幅広く発信している。家庭では二人の子供をもつ母。最新刊は『最小限の材料でおいしく作る9つのこつ』(大和書房)。
文:船井香緒里 写真:エレファント・タカ