刺身より旨い干物をつくる!〜「島源商店」干物修業体験記〜
手づくり「ホッケ干物」は居酒屋を超えるか?魚本来の甘味と旨味が味わえる

手づくり「ホッケ干物」は居酒屋を超えるか?魚本来の甘味と旨味が味わえる

少し大きな魚も干物にしてみよう。今回、伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんが今回教えてくれたのは、居酒屋でおなじみのホッケの干物。魚体が大きいので、干しすぎて固くなる心配がないのもうれしい。

居酒屋の定番メニュー。自分でつくったらどんな味?

ホッケの干物。居酒屋メニューとしては定番だけど、自宅でつくって食べたことがある人は少ないのではないだろうか。僕も未経験だ。そもそもホッケという魚がどんな姿をしているのかも知らない。
「こちらです。サイズはLか2Lですね。産地の北海道では『小魚だね』と言われちゃうサイズです。ホッケは5Lまでありますから。でも、これぐらいのサイズのほうが干物にはしやすいです」

冷凍保存してあったホッケを流水解凍しながら解説してくれるのは我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さん。これがホッケか。アイナメを流線形にしたような魚だな。見るからに水っぽくて鮮度が落ちやすそう。保冷技術が未発達だった時代は主に干物にして保存性を高めて流通させていたのが納得だ。

「頭が柔らかいので、割りやすいですよ。背開きにしてみましょう」
ホッケを干物用に開く手順は以下の通り。

1首から尾まで切り目を入れる

首(頭のつけ根)の後ろから尾までガイドラインとなる切り目を入れる。

首から尾まで切り目を入れる

2中骨に沿って切り込む

包丁を中骨に当てて滑らせて、魚を手で広げながら背骨の向こう側まで切り込む。

中骨に沿って切り込む

3頭を割る

魚を上下ひっくり返し、包丁の刃元で頭を割る。

頭を割る

4身を開く

手と包丁を使って身を押し開く。

身を開く

5内臓を取る

魚の上下を戻し、えらを手でちぎって前に引き内臓ごと除去する。

内臓を取る

開き終えたら、流水かバットに溜めた水の中でハブラシを使って血や汚れを取り除く。

血や汚れを取り除く

おおっ、居酒屋でよく見るホッケの開きになったぞ。

開いたホッケ

ホッケは大きな魚なので、干しすぎる心配は無用!

開いたホッケは、濃度8%の塩水に25分間浸すだけ。

ホッケ

この日の干し時間は、約2時間。ただし、この日は風速が16メートルもあり、海辺にある島源商店の屋上は周囲に遮るものがないのでどんどん乾く。家庭のベランダで干す場合は少なくとも3~4時間ぐらいは干したほうがいいと思った。「干し加減はお好みで構わない」と内田さん。
「ホッケは比較的大きな魚なので、干しすぎることはまずありません。軽く干して生っぽく食べてもいいですし、ガッツリ干して酒の肴にするのもいいでしょう」
干すときのコツは、開いた身を尾から頭の方向に手で何度かなでること。こうすると表面がつややかに仕上がる。せっかくつくるならば見た目も良くしよう。

干す

自分でつくればホッケ本来の甘味と旨味がよくわかる

焼く段階になって、改めてホッケの大きさを思い知らされた。焼き網からはみ出しそうなのだ。これで2Lだとすると、3L以降のホッケはどうするのだろう……。
「家庭用のグリルには入り切りませんよね。頭側と尾側の半分に切り分けて焼いてもいいと思います」
身のほうからじっくり焼きながら内田さんはアドバイスしてくれる。

焼く

ホッケにほぼ火が通ったら、ひっくり返して皮目を焼く。皮はパリッとして中はふっくらと仕上がった。

皮目を焼く

「あれ、ちょっと塩が甘めですね。浸け時間を30分にしたほうがよかったかも」
他人には優しいが干物には厳しい内田さんが顔をしかめる。でも、僕はこれぐらいの塩加減のほうが魚の味がよくわかって好きだな。むしろ、居酒屋以上の出来栄えではないだろうか!僕が居酒屋などで食べていたホッケの干物は調味料の味が強いことも改めて知った。
「僕もこれぐらいが好き。甘味があっておいしいな。たくさん食べられる!」
魚大好きのカメラマン、牧田さんが撮影の合間にバクバク食べている。骨の下の身は塩が入りにくいのでさらに薄味だった。
「リズムがあっていいですね!」
あくまで前向きな牧田さん。確かに、同じ干物の中で塩味のばらつきがあるのは乙なものだ。特に、ホッケのような大きなものだと食べ飽きないことは重要。物足りなかったら、大根おろしに醤油をかけて添えればいい。みんなであれこれ言いながら食べたいメインディッシュが出来上がった。

完成
大宮冬洋の干物日記
【大宮冬洋の干物日記】鎌倉の魚屋で、鮮魚を学ぶ連載もスタート!
○月△日 
刺身より旨い干物をつくる!と意気込んで始めた本連載。いろんな状態の魚を干物にして食べてわかったのは、プリップリに新鮮なうちは干物に向かないこと。身がほとんど崩れていないため、塩水につけても浸透圧が働きにくく、塩味もつきにくいのだ。
干物にするには、冷凍保存しておいた魚を解凍したものぐらいのほうがちょうどいいと知りつつある。同じ魚でも状態によって刺身向きと干物向きがあり、適切な方法でつくればどちらも飛び切り旨いのだ。
ならば、魚を新鮮なうちに美味しく食べる方法も学びたい。願えば叶うもので、鮮魚を丸ごとさばいて味わう「鮮魚・丸ごとチャレンジ」という連載を始めることができた(こちらです)。舞台は、鎌倉の高台にある「サカナヤマルカマ」。鹿児島県阿久根市や神奈川県小田原市の近海でよく獲れる天然魚を無駄なく活かすことを掲げている小さな鮮魚店だ。主な講師は元漁師で元水産庁職員の上田勝彦さん(通称ウエカツさん)。海と魚に関する膨大な知識と技術を惜しみなく分け与えてくれる。
神奈川県鎌倉市で鮮魚を学び、静岡県伊東市で干物修業をし、愛知県蒲郡市の自宅で実践する。海沿いの町で、魚をよりよく活かす方法を身につけ、こうして文章にして多くの人と分かち合っていきたい。

教える人

内田清隆(「島源商店」専務)

1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。

島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。

文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎

大宮 冬洋

大宮 冬洋 (ライター)

1976年生まれ。埼玉県所沢市出身。2012年、再婚を機に愛知県蒲郡市に移住。潮干狩りの浜も深海魚漁の港もある町で魚介類に親しむようになる。現在は蒲郡と東京・門前仲町の2拠点生活を送る。インタビュー記事なのに自分も顔を出す「インタビューエッセイ」が得意。関心分野は人間関係と食。自分や読者の好きな飲食店での交流宴会「スナック大宮(https://omiyatoyo.com/snack_omiya)」を東京・大阪・愛知などのどこかで毎月開催中。著書に『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)などがある。