北海道を移動中気になるお店を見つけた松尾さん。これはいかねばとたずねてみることに。個性的な店内で食べるスープカレーの味とは――。
北海道中標津町あたりで、移動中のバスの窓から街の景色を眺めていると、見覚えのある店名が目に入った。札幌のスープカレー有名店「木多郎」だ。広く、レトルトのカレーも販売されているので、北海道に行かれる機会がなくともどこかで目にしている人は多いのではないか。
支店なのか、フランチャイズなのかはわからなかったが、これは行くしかないと思い立ち訪ねてみた。
入り口前には電飾や、地面に雪虫のようなメルヘンを感じさせるプロジェクション的光が舞い、少し浮かれた感じで二重ドアを入る。外側のドアには、「ヒンナー」と書いてある。「あれはどういう意味ですか?」と店主の方にうかがうと、「ありがとう」の気安い表現だと教えてくれた。2枚目のドアには「アフプ・ヤーン」とある。こちらは、「お入りなさい」の意だそうだ。お気づきの通り、アイヌ語である。
「木多郎」のフランチャイズではあるけれど、通常の形態ではなく、味を揃えるというよりも違いを楽しんでもらいたいとのことだ。看板にある「倶楽部」の文字は、個性が自慢であることの意思表示だそう。
果たして、いい意味で想像に反して、お味は素晴らしくバランスの取れた旨味を感じるスープカレーで、これは毎日でも食べたいヘルシーさだった。
食後のコーヒーはセルフで自由に飲むことができる。
穏やかで知的なご夫妻(?)で、アイヌの方ではないけれど、愛着は強くお持ちのようで、地名についての意味や発音のあれこれや、入植・開拓した人たちの当時の状況、アイヌの精神などについて細かく教えてくれた。
幕府が「この辺りの土地を与える」と親切ごかしで持ちかけるも、「大地は誰のものでもない」という認識からまったく意味が通じずに困惑したエピソードなどを聞かされた。
もちろん、お馴染みのレトルトは置いてありました。
退店する時、内側からドアを開けるときには、「スィ ウヌカラ アンロー」とある。「またどうぞお越しください」ということらしい。なかなか中標津町に赴く機会が限られるけれど、ぜひ再訪したいカレー店だ。
文・撮影:松尾貴史