一日一個のリンゴは医者を遠ざける。数万人規模の疫学研究でも、リンゴの凄さは証明されている。生食が主流の日本では、食用の赤果肉リンゴは殆どなかったが、20年以上の研究と試行錯誤の結果、機能性成分の宝庫!5品種の生で美味な赤果肉リンゴが生まれた。
赤果肉リンゴを育種した吉家一雄(66歳)は、長野県農業大学校時代、観賞用の果肉が赤いリンゴに強い魅力を感じた。しかし、赤い果肉のリンゴは酸が強く、苦味も強いため、生食にむく品種はなく、観賞用と加工用にとどまっていた。
そこで、吉家は自ら食味の良い赤果肉リンゴを作ろうと一念発起し、卒業後、家業を継ぎ、2.5ヘクタールの広大な畑で品種開発を始めた。果樹の育種は交配と選抜の繰り返しが基本。選抜できる数の実がなるには7年前後は必要だ。1994年頃から赤果肉リンゴの交配に取り組み、5つのリンゴの品種登録出願をしたのは2014年。
つまり、20年以上の歳月を費やし、日本発の赤果肉リンゴ品種は誕生した。
米国産のピンクパールと紅玉から「いろどり」が生まれ、「いろどり」と王林から「なかののきらめき」、「いろどり」と「ふじ」から3つの品種、炎舞・なかの真紅・ムーンルージュが誕生した。今回は5品種から酸度が高い「なかののきらめき」と、ふじ由来の甘さが魅力のムーンルージュをお届けする。どちらの品種も糖度14度前後で甘さ十分と言える。
「なかののきらめき」はニュージーランドの種苗会社が苗木を育成し、リンゴの酸味を好む世界8カ国で栽培が進み、来年から収穫が始める予定。いろどり・炎舞・ムーンルージュは韓国の種苗会社が育成し、既に一部では流通が始まっている。吉家は地元の長野の為だけでなく、世界の赤果肉リンゴ市場で勝負できる品種を開発している。
リンゴは品種により含有量の違いはあるが、ビタミンC・カリウム・食物繊維が多く、リンゴに多く含まれるプロシアニジン、カテキン、50種類以上のポリフェノール等も含まれている。世界中でリンゴの医科学的な価値について様々な研究が進み、多くの機能性のエビデンスがある。赤果肉リンゴの研究は日が浅く、今後の成果が楽しみだ。
普通のリンゴが守銭奴的な医者の敵だとすれば、赤果肉リンゴは強敵となるだろう。
文:(株)食文化 萩原章史