甘くない、シャリ感は?……種無しは長いこと、お飾りスイカだった。種無しスイカの評価が低いのには訳がある。その訳(弱点)を15年費やして克服した凄いスイカ。200種類ほどの4倍体と2倍体の掛け合わせから生まれた特別な3倍体が「ブラックジャック」。
4千年前から栽培されてきたと言われるスイカの歴史は品種改良の歴史でもある。
ケニアに残る原種に近いスイカの水分は多いが、甘さは少なく、苦味と渋みがあり、果肉は白い。その後、白と黄色の甘いスイカに改良され、やがて、赤のスイカの時代になる。種無しスイカは植物遺伝学者の故木原均博士がゲノム研究で開発した技術。何品種も種無しスイカは生まれるが、不動の地位を確立することなく、消えていった。
普通の生物はオスの染色体1組とメスの染色体1組の2組を持つので2倍体と呼ばれる。2倍体のスイカが発芽した頃、コルヒチンという植物由来の成分を使うと4倍体に変化する。4倍体のめしべに2倍体の花粉を受粉させると、3倍体のスイカの種が宿る。3倍体のスイカは染色体が多く、生殖機能に問題が生じるため、ほぼ種無しになる。4倍体は細胞が大きく、生命体として異常にパワフルで草勢が強く、暴れ馬のような特徴がある。3倍体も似た傾向があり、発芽性が悪く、草勢強く、着果しにくい。
結果として、2倍体のスイカが2〜3個着果するのに対して1個しかならない。栄養が1個に集中投下されるため、大玉になり、果肉が硬くなり、空洞も生まれやすく、糖度も上がりにくい。3倍体の種無しスイカは、栽培コストが高いうえに、栽培も難しいので、結果として、高く売らないとならない。その割に食味が良くないので、消費者は 『種がない』 という付加価値でしか評価できない。スイカ好きが支持しないのは当然だ。
4倍体のスイカは栽培が難しく、1年に1度しか種が取れない。玉数が少なく、種数も少ないので、2倍体の3〜5倍の面積が必要となる。狙いは定めるものの、遺伝子の偶然から生まれる新品種。「ブラックジャック」は15年の歳月を費やし、種ありスイカと遜色のない糖度(12度前後)とシャリ感を実現した。梅雨がある日本はスイカの栽培が難しい。消費者の舌も肥えている。当然、スイカの新品種のデビューは難しい。「ブラックジャック」は、種が小さくて気にならないピノ・ガール、赤いスイカを凌駕する黄色い金色羅皇を開発したナント種苗が開発した種無し革命児。これからが楽しみの新品種だ。
文:(株)食文化 萩原章史