世界中の凄いブドウ品種のDNAが彩なす赤いブドウ「サンシャインレッド」。糖度19度前後の圧倒的な甘さと、華やかなマスカット香。もちろん、皮ごと食べられ、種もない。人類の歴史と同じくらい長いブドウ栽培の歴史――数千年の時と数えきれない交配の連鎖が生んだ奇跡のブドウ!
標高490mの試験場には長年蓄積してきた遺伝資源がある。それも世界中の凄い血筋と様々な交雑種のDNAがあるから、サンシャインレッド(商標)は生まれた。品種名は甲斐ベリー7。サニードルチェ・ジュエルマスカットなどの優れたブドウ品種を生み出したノウハウと、栽培技術を磨き上げる凄腕のブドウ農家が多数存在する山梨県だから実現したと言える。山梨県内は果樹試験場だけでなく民間の育種も盛んで、まさに現代の殖産興業は山梨にある。当然、県が開発した品種は県内しか栽培できない。
甲斐ベリー7はサニードルチェとシャインマスカットを親にもつ。1988年に交配したシャインマスカットは安芸津21号と白南が親。安芸津21号は米国のスチューベンと欧州のマスカット・オブ・アレキサンドリアが親。白南はロシアのカッタクルガンと日本の甲斐路が親。1986年に交配したサニードルチェはレバノンのバラディーとブラジルで発見されたイタリア種の枝変わりのルビー・オオクマが親。甲斐路はスペインのフレームトーケーと日本のネオマスカットが親。欧州系の皮ごと食べられる食感を残しつつ、多湿だと病気になる欧州系の弱点をアジア・米国系のDNAで克服し、糖度を高め、なおかつ種無しにするというハードルを、越え続けるのが日本のブドウ育種界の課題だ。
様々なDNAが果たす役割がわかったことで、育種の時間が短くなったのは確か。
それでも様々な特性は実がなるまで育てなければわからない。その時間は5~6年。
さらに、栽培技術の確立には試行錯誤と実際の農家のノウハウが欠かせない。
気候変動が農作物に激しく実害を及ぼす時代。DXの推進は農業でも進みつつあるが、育種は育種家の直観と直感と持って生まれた運と情熱が必要なのは間違いない。
山梨県の次なるブドウ育種は皮ごと食べられる黒いブドウ。緑のジュエルマスカットも素晴らしい!赤はサンシャインレッドが圧倒的な存在になる可能性が十分ある。隣県の皮ごと食べられる黒い大粒大房のブドウに負けない黒ブドウが誕生する日も近い。
文:(株)食文化 萩原章史