一生食べ続けたいひと皿
親子三代に伝わる"湯でモヤシ"|カメラマン・海老原俊之

親子三代に伝わる"湯でモヤシ"|カメラマン・海老原俊之

カメラマンの海老原俊之さんのひと皿は、お母さんがよくつくってくれた、簡単なのに箸が止まらなくなる“湯でモヤシ”です。特別なときに食べるハレの料理でもなく、いつもの普段の食事でもなく、ただ美味しいとか、好きだとか、ということでもなく、常に身近にあって食べ続けたいもの。人生や思い出と、いつも、いつでも結びついている。そんな、一生食べ続けたい「ひと皿」を食いしん坊に聞きました。

家庭の味方

母親は料理が多分好きだったんだろうと思う。毎日メイン1品に副菜が2、3品、当たり前のように食卓に並んでいた記憶がある。今の我が家の食卓を考えると、中々大変だったのではないかと思う。
食べ盛りの私にはご飯に合うおかずであれば何を出されてもバクバク食べていた。おかげさまで高校に入るころには家族の中で一番下の私は断トツで体が大きくなっていた。

毎日の食卓の中でよく出されていたのが「湯でモヤシ」。レシピを聞いたことはないが、自分でも真似してよくつくる。お湯を沸かして、沸いたところに1袋のモヤシを入れる。少し硬めにゆで上げ、お湯を切りボールに移し、お酢とお醤油、ごま油をお好みに適当に入れ、最後にすりごまをたっぷりかけて頂く。特に変化球もなく、普通の「湯でモヤシ」ですが、これが美味い、止まらない箸休めの1品です。

湯でモヤシ

母親の納骨の時に、兄が何気なく「湯でモヤシ」が無性に食べたくなるんだよねと話してくれた。「よく餃子と一緒に出てたよね」。私の記憶にはそこまで鮮明ではなかったが、母親は岐阜県美濃市の出身、今考えると東海地方の餃子には「湯でモヤシ」がつきもので、その影響もあったのかなと、今となっては確認が取れないのが少し寂しいです。

湯でモヤシ

モヤシは安くてうまい食材。近所のスーパーでは1袋19円。ほかの野菜は季節などで価格変動しますが、モヤシは変動もなく常に安価で家庭にやさしい食材。買い出しの時は必ず買い物かごに2袋は入れています。
最近、モヤシを買う理由の1つになっているのは娘かもしれません。彼女も「湯でモヤシ」のファンで、モヤシを見ると「ゆでたモヤシ」好きだよって言ってくれます。彼女が独り立ちして彼女の食卓に「湯でモヤシ」が並ぶことを今から想像すると楽しみです。

文・写真:海老原俊之