数年前から気になっていた浅草のカレー店を訪れた松尾さん。ようやく味わうことができた西インドカレーの特徴とは――。
所用で浅草を歩いた時に、「おや?不思議な入り口がある」と思ったのが二、三年前だろうか。
「ガヤバジ」という店名らしい。屋根付きで、両側の壁には葦簀が張り巡らされ、天井には豆電球がジグザグに連なる通路を通って店に入るようだが、最初に発見した時は気後れしてしまった。
しかし、今回初めて訪問することができた。
趣味性の強い異国情緒を感じる内装に、期待感が増す。
カレーは「1種」「2種」「3種」から選んで注文する。今回は「ガオランチキン」「ティスリャマサラ」「ミサル」の3種をいただいた。
「ガオランチキン」の「ガオラン」とは、田舎風という意味だとか。程よい辛味と苦味の広がりが何も言えぬ心地よさ。
「ティスリャマサラ」はアサリのカレーで、コカモなのかタマリンドなのか、酸味がほのかに効いていて新鮮な旨味も引き立つ。
「ミサル」は豆のカレーで、ムング豆の食感と風味が心地よい。よくある、辛さを中和させる役割を持つ豆カレーとは一線を画す存在感だ。
西インドのミックススパイスは、現地の奥様の実家から取り寄せてもいるらしい。西インドのマハーラーシュトラ州の調理法を軸に、家庭的な味を提供しているそうだ。現地ではガスや電気のインフラが整っていないところも多く、火加減の調節なども難しい中、まずは焦げるほど調理し、ほろ苦さなども逆手にとって活用するスタイルだそうで、家庭的だが大人の味になっている。今回いただいたチキンカレーも、いわゆるメイラード反応がふんだんに取り入れられているようだ。
サービスでバスマティライスのおかわりができるのはありがたい。糖質の吸収率がジャポニカ米の半分なのでついたくさん食べてしまうのだ。
以前は大阪で間借りのカレー店をなさっていたそうで、夫婦2人で上京し、浅草でも間借りカレーを開業して、現在に至る。余談だが、夫婦で下北沢「般゚若(パンニャ)」にもカレーを食べにきてくださったことがあるそうだ。
2021年にこの地で実店舗を再オープンした。おそらく、その頃に私は前を通って、表の通路を見て怖気付いていたのだ。
しかし、店名の「ガヤバジ」とはなんだろうか。「バジ」は炒めたり揚げたりしたスパイス料理の意味だったような気がするが、「ガヤ」は擬態語か、地名か。地域電子マネー「世田谷ペイ」で支払う時に「ガヤ!」という音が鳴るが、もちろん関係はない。実は、シェフを務めているオーナーの奥様の名前がジョシガヤトリさんとおっしゃるそうで、名前の一部「ガヤ」と、スパイス料理を表す「バジ」を繋げたようだ。その奥様は今、出産のために西インドに数ヶ月間帰省中で、店はご主人ひとりで切り盛りされている。
ランチ時もひと段落した頃合に、ご主人が我が師・中島らものファンであることを表明されて、暫し思い出話に花が咲いた。
文・撮影:松尾貴史