全国イチゴ収穫量の2%にも満たない、イチゴ戦国時代の小大名、埼玉県。栃木24,400トン、福岡16,800トン、それに比べて、埼玉は全国12位の3,000トン。過去の埼玉県の開発品種は鳴かず飛ばず……。開発リソースが限られる中、埼玉の偶然が生んだ 『埼園3号』が2019年、『あまりん』と名付けられ、快進撃を続けています。
ハウスの促成栽培で年末から春まで連続収穫できるイチゴ生産技術と、輸送技術の発達で、全国にイチゴ生産が広がる中、露地栽培が盛んだった埼玉県は完全に出遅れ、観光イチゴ狩り農園の生産は続いたものの、全国的にはマイナー県となった。
その後、埼玉県の育種で2品種が登録されたが広がらず、県は独自の育種を諦めた。
イチゴに限らず、育種家は 『栽培しやすい』 『収穫量が多い』 『輸送に耐える(日持ちするも)』 『食味が良い』などの、多くの課題解決を目標に掲げる。
結果として、食味が犠牲になることは多々ある。理由は農家の所得向上が最終目的で、大規模な流通販売ができなければ、意味がないからだ。ところが、埼玉の場合、観光農園に食べに来る方々に向けての品種開発だから、徹底的な食味重視の品種開発が可能だった。その上、イチゴの名産地となれば、県庁の多くの部署(含む知事)が関心を持ち、育種家には相当なプレッシャーが掛かる。その点、期待度が低ければ、育種家は伸び伸びと開発に取り組める。さらに、高品質・高価格のイチゴが最も売れる首都東京のお膝元の埼玉県。時間とコストの物流面の優位性は圧倒的だ。
本能寺の変の前、織田信長の全盛期は780万石と日本の全国高の3分の1を占めていたと言われる。今川義元を討った頃の信長は45万石前後だったと考えられている。45/2,340 = 2% まさに今の埼玉県の全国イチゴシェアだ。トップ4県(栃木・福岡・熊本・長崎)の合計シェアは40%。それに愛知・静岡・佐賀を加えれば57%を超える。物流メリットと圧倒的な食味を武器に、これらの大大名の領地の5割強を奪うことは十分に可能だ。そうなれば、まさに全盛期の織田信長となる。『あまりん』だけでなく、『かおりん』『べにたま』も埼玉県の有望品種。埼玉県が都のイチゴ市場を席巻する日は近いかもしれない。埼玉ガンバレ!行け行け あまりん!まだまだ生産量が僅かだが、埼玉県の精鋭イチゴ軍団には大きな可能性がある。食べて驚くレベルの味だ。
文:(株)食文化 萩原章史