dancyu4月号「ミニマルレシピ」絶賛発売中！

2024.03.06
- 連載 : dancyu本誌から

今回の特集テーマは「ミニマルレシピ」。今までのレシピの多くは、いろいろな食材を組み合わせ、調味料を足して、複雑味のあるおいしさをつくってきました。一口でガツンとくるインパクトは魅力的ですが、そういう味に少し疲れてきたのが正直なところ。そこで、原点にまで戻ってみたのです。日々の暮らしにも取り入れやすく、まさに今、求められているレシピです。簡単でも、時短でも、手抜きでもありません。ミニマルレシピ、ぜひお試しください！

ちゃんと見ること

dancyu2024年4月号: 20年近く前のことになりますが、エッセイストの平松洋子さんとの雑談中に、ブラウンマッシュルームのサラダのつくり方を教えていただいたことがありました。ブラウンマッシュルームを5mm幅に切り、レモン汁を混ぜ、塩をふり、オリーブオイルと粗く刻んだパルミジャーノチーズで和えるだけ、というシンプルなレシピです。
「うん、簡単と言えば簡単。だけど一番大切なのは、ちゃんと集中してつくることなの」
と平松さん。レモン汁も塩もオイルもすべて適量。その代わり、加える順番を間違えないこと。しっかり見ること、片手間にやらないこと。
ほう！と感銘を受けた私は、書き取ったメモに、カッと見開いた大きな目玉のイラストと「集中」という吹き出しを添えました。
早速マッシュルームを買って帰り、いざ実践。ちょっと緊張しながらレモン汁を搾り、塩を混ぜます。おそるおそる味見したところ……あ、美味しい！シンプルながら滋味深く、とても品のいい味わいです。素晴らしいレシピを教えていただいたと、うれしくなりました。しかし。私は慢心したのです――。
後日、友人が遊びに来たとき、得意になってこのマッシュルームのサラダを出しました。ところが、先日の一皿とはまるで別物。べちゃっとして水っぽく、酸味と塩味もバラバラ。あああ、掟を守らなかったからだ！！マッシュルームにピシャッとやられた気分でした。私は教えてもらった一番大切なこと、きちんと見て集中することを、怠ったのです。目分量でちゃちゃっとつくれる簡単なレシピ、と安易に置き換えて。
材料の少ないシンプルなレシピは、簡単に見えてそうじゃない。かといって高度なテクニックが必要なわけでもない。きちんと気持ちを向ければ、ちゃんと応えてくれる。料理における、本質的なことを学んだ一品でした。

dancyu編集長　藤岡郷子