ひょんなことから辛口のカレーを食べたくなった松尾さんは、久しぶりに辛いで有名な店を訪ねることに。改めて実感したその辛さと旨さとは――。
世田谷は梅ヶ丘のBARで、年配の夫婦連れのお客さんが「若い頃から通っているけど、美味いよね、すごく辛いけど」などとカレー店の噂話をしている。聞くともなしだが聴こえてくるので仕方がない。「カーナピーナ」と言っている。おお、そこなら知っている、以前食べに行った。相当の辛さだが美味いカレーだった。翌朝目覚めると、もう辛口のカレーの味になってしまっている。またあそこのカレーが食べたくなったのだ。
以前訪れたのは5、6年前だったか。開店時間早々に来たら、ミュージシャンでカレーのエキスパート、小宮山雄飛さんと店内でばったり遭ってカレーをご一緒したのを思い出した。なぜか2人とも白Tシャツで笑ってしまったのだった。
今回も開店時間前に着いて、準備をしている気配を感じて安心し、しばらく待つことにした。起きる時間のせいで朝食を食べそびれることが多い私は、カレー店のランチ時間の開店直前に行って一番客になることが多い。
マイルド、セミホット、ホット。この三段階から選ぶのだけれど、マイルドで他の多くのカレー店の辛口、セミホットが他店の「激辛」くらいではないだろうか。以前の辛さを忘れてしまっていたので、つい「セミホット」と注文してしまった。
通常なら先に食べてしまうセットのサラダを「舌休め」に使うことにして、カレーが到着するのを待った。果たして登場したカレーは以前と変わらぬ、オーソドックスな見た目である。ところが、一口食べた途端に口の中は灼熱、知っているのに驚くほど辛い。ライスに添えられている玉ねぎのアチャール(スライスオニオン)がオアシスに感じるも、すぐに食べてしまったので単品で追加注文した。
辛くとも旨さを感じ続けるのでスプーンは止まらない。「汗の小一升もかく」という古めかしい言い方は大袈裟だが、汗がとめどなく噴き出して紙ナプキンを多く消費してしまった。
食べ終わった後、ご主人としばし世間話を。これだけ辛い理由を問えば、「辛いのが好きなんで」と明快なお答え、有難うございます。「カーナピーナ」の名前の由来を奥様に尋ねると、ヒンディー語で「カーナ」は食べる、「ピーナ」が飲むと言う意味だそうだ。確かに水を大量に飲ませていただきました。
文・撮影:松尾貴史