干物には、腹から包丁を入れる「腹開き」と、背から切り開く「背開き」がある。それぞれのさばき方とメリットとデメリットを、伊東の人気干物店「島源商店」の内田清隆さんが伝授する!
干すことで水分を適度に抜き、旨味を凝縮させつつ保存性を高めた食べ物。それが干物だ。当然ながら、丸のままの魚よりも、開いたほうが乾きやすくなる。開き方には大きく2つの方法がある。腹から包丁を入れて切る「腹開き」と背中から切る「背開き」だ。
腹開きについては、我らが干物師匠・「島源商店」の内田清隆さんが「プロの七手」を前回丁寧に教えてくれた。内田さんはこの七手でアジ1匹を8秒ぐらいで開けるらしい。慣れた人なら複数の魚をさばくときは腹開きのほうがスピーディにできる。
「腹開きでは包丁で内臓をかき出すことができますが、背開きの場合はよほど慣れていないと難しいでしょう。一度包丁を置いて手で内臓を除去する分だけ、腹開きより時間がかかってしまいます」
そんな内田さんが背開きをしたいときがある。カマスやサンマなどを仕入れたときだ。
「一般的なのは腹開きなのですが、長物(細長い魚)は背開きが適しています。魚の背中から包丁を入れたほうが背骨にすぐあたるので細長くてもキレイに開けるからです。薄い腹から包丁を入れて腹の皮が破けてしまう心配もありません」
内田さんの実演をカウントすると、背開きは七手ではなく六手。アジを使ってスローモーションで教えてもらおう。なお、魚は腹開きと同じく縦に置くと良い。尾を手前にし、利き手側に背中を向ければ準備完了だ。
この六手を自分でやってみると、確かに包丁を一度置かなければ内臓を除去できないことがわかる。内臓がある腹側が開いている腹開きは包丁でグリッとかき出せるけれど、背開きでそれをやろうとすると身を傷つけてしまいかねないのだ。手で作業したほうが確実だし、早い。
内臓と血で手が汚れてしまうし、次の魚を同じように開こうとするとまた包丁を持ち直さなければならない。内田さんのように何十匹、何百匹を開くとなると小さな時間が積み重なってしまう。でも、僕のような一般人が家庭で数匹さばくときは背開きでも問題ない。手を使うならば腹開きよりも内臓を引き出しやすいし、背開きのほうがはっきり言って見た目がいい。腹開きは魚の両眼が近づくので変な動物みたいな顔になるし、腹が外側なので輪郭がはっきりしない。それに対して、背開きは二匹の魚がお腹を合わせて円を作っているような風情だ。外側に背びれがくるのでカッコいい!見た目もアピールしたい魚は背開きに、と覚えておこう。
「小田原開き」とも言われる、頭を残すタイプの背開きもある。やはりカマスやサンマなどの細長い魚の干物でよく見かける。内田さんはどんなときに使うのだろうか。
「私は小さめの真鯛や甘鯛を干物にするときに使います。鯛は顔もカッコ良くて頭は固いので、あえて割らずに残すほうを選びます」
ただし、頭を割らないと「乾きにくい」というデメリットも生じる。気温が高いときは乾く前に腐ってしまう危険もある。見栄えと手間だけではなく、頭の大きさや固さ、気温なども考慮して開き方を決めるのが良い。
この開き方は頭を割る工程がないのが楽だ。以下、頭を残す背開きの四手。
腹開き、背開き、小田原開き(頭付きの背開き)の3つの開き方を紹介した。複数の魚をスピーディにさばきたいなら腹開き、細長い魚や円形の美しいフォルムに仕上げたいときは背開き、鯛など顔のかっこいい魚や頭が固い魚は小田原開き。なお、頭を開かずに残す小田原開きは乾きにくいことは念頭に置こう。そうすれば、魚の種類や作業時間によって「今回はこの開き方にしよう」と自在に対応できる。干物作りがますます自由に楽しくなりそうだ。
1977年生まれ、東京都江戸川区出身。2005年、妻の実家である「島源商店」に入社。旬の魚を目利きし、脂乗りや身の厚さに応じて仕込み、干し台の向きや干し時間を天候によって変えるなど、魚と塩と天日だけを使った干物づくりの伝統を受け継ぎ、「一口食べれば味の違いを実感する」干物づくりに精進している。内田さんの義父である島田静男さんは『かんたん干物づくり』(家の光協会)という一般向けの本も監修。
島源商店
住所:静岡県伊東市松原本町4‐8
TEL:0557‐37‐2968
http://www.shimagen.com/index.html
※明治30年創業の干物店。卸が中心だが、店頭でも購入可能。
文:大宮冬洋 撮影:牧田健太郎