シネマとドラマのおいしい小噺
アラフィフの誕生日に、宝石のようなバラちらしを|ドラマ『きのう何食べた?season2』

アラフィフの誕生日に、宝石のようなバラちらしを|ドラマ『きのう何食べた?season2』

映画やドラマに登場する「あのメニュー」を深掘りする連載。第34回は、昨年末にシーズン2を終えたばかり、漫画原作の人気作から。フィクションでありながらも、着実に、そして丁寧に年を重ねていく二人の姿にジーンときます。

シロさん(西島秀俊)とケンジ(内野聖陽)が織りなす、人気ドラマのseason2である。彼らは年月を重ね、いまや50代に差しかかろうとしている。

「いろいろ変わっていくけど、悪いことばっかじゃないよ」

ケンジが自分に言い聞かせるように言う。もう若くはない現実に戸惑いを覚えながら、手を携えて乗り越えようとする二人の姿が映し出される。

ケンジは体型の変化やコレステロール値が気になるし、シロさんが目下欲しいものは「老眼鏡」だったりする。そしてクリスマスや誕生日など、ハレの日のお祝いメニューに、二人の年相応の変化が顕著に現れる。

鶏もも肉の香草パン粉焼きと、ラザニア。彼らの思い出の料理であり、長らくクリスマスの定番メニューであった。がっつり高カロリーなこの料理を、二人は身体への負担が少ない「煮込み」料理にシフトする英断を下す。脂肪の少ない赤身ビーフをじっくり3時間かけて煮込んだシチュー。時間をかけて完成したそのおいしさは二人の関係を映すよう。ケンジだけでなくつくった本人シロさんも大いに満足し、新たなクリスマスの記憶が刻まれていく。

そして、次にやってきたのは否応なく「年齢」を意識させられる誕生日。アラフィフに突入する自分を受け入れられないケンジは、「お祝いはしないで」と突っ張っている。やむなしと思ったシロさんだったが、「やはり二人の誕生日を祝いたい」と申し出る。このバースデー・ディナーの献立が実に素晴らしい。

メインディッシュはバラちらし。シロさんはいつものようにキッチンに立ちエプロンをつけ、酢飯を平皿に敷く。最初は地味めな色合いの煮アナゴから並べる。できあいの総菜ではあるが、切り口は綺麗にカット。バラちらしは見た目がとても重要なのだ。次は醤油に漬けておいたマグロ、前日から焼いて寝かせておいた卵焼き。サイコロ状のマグロの赤と、卵の黄色の彩りが映える。さらに茹でエビの朱色、レモン汁をかけたアボカドのグリーンを全体に散りばめていく。

「宝石箱みたい!崩しちゃうのがもったいない!」
キラキラ目を輝かせるケンジ。乙女のような愛らしさは、年を重ねさらに加速している。

混ぜご飯ではなく酢飯の上に具材をのせるバラちらしは、お花畑のようなビジュアルと油を使わないヘルシー感が両立し、彼らにぴったりのお祝いメニューである。付け合わせは菜の花の胡麻からし和え、鶏天とアボカドの天ぷらで、お椀は蛤のうしお汁。

「今日のご馳走、いつものシロさんの年寄っぽい色合いじゃなくて、めちゃくちゃ華がある!」
と、はしゃぐケンジ。
「結果、ひなまつり感あるけどな」
シロさんはちょっと照れている。
小さなホールケーキにバースデープレートものせて、完璧なアラフィフ・バースデーディナーとなった。

……ハレの日の料理だけでなはなく、日常食にもまた秀逸なメニューが登場する。その名も“常夜鍋”。「毎晩食べても飽きない」という名前の通り、身体に優しい料理だ。

鍋の具は、ほうれん草、油揚げ、しめじ、そして豚バラ肉。シンプルな食材だが、鍋の出汁にはちょっと手をかけ、朝から昆布につけニンニクを入れておき、香りを出す。ほうれん草はえぐみが出ないようさっと茹で、つけダレはおろしポン酢、手づくりのねぎ胡麻ダレの2種類を用意。このきめ細やかなひと手間が、シロさんの日常食の真骨頂だ。そこにはパートナーであるケンジを想う気持ちが脈々と流れている。

豚肉の旨味とほうれん草の柔らかい甘味が絶妙にからみあい、しめじと油揚げの食感が口の中でメリハリを演出する。2種類のタレの奏でるバリエーションもたまらない。

「ん~~、豚肉うまい! バラ肉の脂がいいな」
シロさん自身からも、感嘆の声が出てしまうほどのおいしさだ。

アラフィフの日常とハレの日を演出するシロさんの料理センスは、やはりさすがなのである。そして料理を見た瞬間のケンジの嬉しそうな顔。おいしい料理を食べられることは「当たり前」なんかではない。ケンジの幸せいっぱいの笑顔を毎日見られるシロさんが、実は一番幸福なのかもしれない。

おいしい余談~著者より~
「誕生日のバラちらし」はヘルシーなのに食卓がぐっと華やかになり、真似したくなるメニューです。定番や恒例に流されることなく、変わりゆく自分を受け入れるのも二人らしく素敵なのでした。

文:汲田亜紀子 イラスト:フジマツミキ

汲田 亜紀子

汲田 亜紀子 (マーケティング・プランナー)

生活者リサーチとプランニングが専門で、得意分野は“食”と“映像・メディア”。「おいしい」シズルを表現する、言葉と映像の研究をライフワークにしています。好きなものは映画館とカキフライ。