カツ丼はとんかつをだしの効いたつゆと卵でとじることで、揚げものの香ばしさとは別のしっとりとした美味しさを楽しめます。でも、やはりサクッとした香ばしさも味わいたい、ということで、卵の上にとんかつをのせるタイプのカツ丼が流行っています。どちらを取るかは永遠の課題……と思っていたら、この悩みを解決してくれるかつ丼がありました!
東京・人形町に「かつ好(かつよし)」というとんかつの店があります。丁寧に下ごしらえをして、二つの鍋でじっくり揚げるとんかつは、香ばしさと肉の食感、じわりと染み出る旨味のバランスが素晴らしく、ご主人の水上彰久さんのお人柄が現れているような真っ当な美味しさがあります。その水上さんが近くにかつ丼専門店を開いた、と知って伺いました。
メインのメニューはロースかつ丼とヒレかつ丼。かつ好流のとんかつであれば脂も凛々しい美味しさだと思い、ロースかつ丼を注文。まず運ばれてきたお吸い物もきっちりしているし、千切りキャベツのサラダを見ただけで、「ああ、美味しいかつ丼だろうな」と思いました。ドレッシングが軽く和えてあるのに、キャベツがしっかり立っています。
僕は「メインの料理には店の技が表れ、付け合わせには店の良心が表れる」と思っています。定食でもフレンチでも、メインの料理が素晴らしく美味しいだけではなく、そこに添えられたものが美味しくて、丁寧に盛り付けられていると感動します。定食の漬物を美しく並べても値段を高くすることはできないけれど、でも客は気持ちよく楽しく食べられます。こういうディテールにも自然に気を配る店は、通いたくなります。
肝心のロースかつ丼は、しっかり揚ったとんかつに、ざっくり混ぜてそのままの旨味を残した卵と素性の良さを感じるつゆの“卵ソース”がかかっている感じです。
やや強めに揚げているので、真ん中のとじた部分を食べると、ロースかつの静かな迫力の旨味と卵のしっかりしたやさしさを同時に味わえます。卵ソースがかかっていない端の部分はとんかつならではの香ばしい味わい、食べ進んでいるうちに真ん中部分はつゆが染みて少し柔らかくなりますが、かつ煮のように柔らかくなることもなく(かつ煮の柔らかさは別の旨さで、それをつまみに酒を飲むのも好き!)、香ばしさとだしのしっとり感が融合していくグラデーションを楽しめます。
もちろん、ご飯との相性も素晴らしく、とんかつ、だし&卵、ご飯のそれぞれがしっかり持ち味を発揮しながら、一体化している感じです。
かつ丼はとじるか、のせるか。もう悩まなくてすみそうです。
文・写真:植野広生