映画人の朝の胃袋を支えてきた「ポパイ」が映画化!?「シン・ウルトラマン」、「シン・ゴジラ」など数々の日本映画を監督してきた樋口真嗣さんの、仕事現場で出会った“ゲンバメシ”とは?
さて、連載の途中ではありますが、告知がございます。
このたび、ワタクシ樋口、映画に出演することになりました。
しかも一本ではありません。
まず1本目は、映画の世界に足を踏み入れたら一度は必ず口にするであろう――「ポパイ」。そのポパイが劇場用映画となって公開されます。題して「映画の朝ごはん」。 映画づくりには切っても切れない関係でありながら一度も映画には写らなかった「ポパイ」。
業界最大シェアを誇る映画の朝ごはん弁当屋さんを追いかけたドキュメンタリー映画です。 8時前に稼働してもらうスタッフ――特に衣装メイクといった支度パートはもっと早い時間帯……始発で間に合うギリギリに、集まりやすいターミナル駅の近くで複数台の車両が停めやすい場所に集合してロケ場所へ向かいます。
古くは新宿スバルビル前、渋谷ならパンテオン前でしたが、今やスバルビルも渋谷パンテオンもありませんし、そんな駅前一等地に早朝とはいえ長時間停車するワンボックスカーやマイクロバスの車列を許容する世の中でもなくなり、流転を繰り返した果てに今では駅からちょっと離れたなぜか郵便局の前の荷下ろし可能なスペースが集合場所になっています。
朝食を買う時間も惜しんで集まって車両に乗り込むスタッフに配られるのが、プラパックに詰め込まれたおにぎり2個におかず一品。バランで仕切られて黄色い沢庵。割り箸袋には丸々太った「ポパイ」の文字。映画やテレビの撮影を仕事にしていると当たり前のように習慣化した風景です。
その朝食弁当を何時にどこの駅前の集合場所に何個届けてもらうか、前日の撮影の遅延によって移ろいやすいスケジュールを推し量りながら采配する製作担当者の心労もさることながら、ギリギリになってわかるその注文量に柔軟に対応するのが星の数ほどある弁当屋の中でも「ポパイ」だったのです。
近年では朝のロケ弁に参入する競合会社も現われ、若く野心的な製作部の間ではポパイだけでは飽きてしまうだろうという配慮から、ポパイ以外の勢力に発注するケースも増えてきました。
しかし、そこで明るみになるのはポパイとの違いであり、それはすなわちポパイの魅力なのだが、それがどうにもこうにも言語化できない。ロジスティックスの強靭さといった運用面だけではないのではないか?と思うあたりから、私自身ポパイがただの配達弁当屋として捉えられなくなり始め、今ではfacebookでポパイ部を主宰し、ポパイにまつわる最新情報を、映画界に草の如く放たれ潜むポパイ好きと情報を交換し合っています。
基本フォーマットであるおにぎり2個、おかず一品なんだけど、おにぎりの具材、基本はシャケ、おかか、梅干し、昆布、明太子あたりがランダムに入ってきていて、時々ツナマヨとかチキンライスとか今どきなラインナップも混じってくる感じで、おかずは唐揚げかゆで卵か卵焼きかウインナーのいずれか一品、時々コロッケ。
配達用の段ボールの中に入っていたリーフレットを見ると、おにぎりの具は明太子、鮭、しばちりめん、野沢菜ちりめん、高菜、おにぎり昆布(醤油風味)、きくらげ昆布(しそ風味)、すじこ(10月~6月の間)、葉唐辛子、わさびのり、ツナマヨ、ツナ醤油、紀州、カリカリ梅、おかか、わかめご飯、鶏飯、豆五目、あさり飯、ネギ味噌、大葉味噌、肉味噌、葉唐味噌、豚肉の生姜焼き、牛タンネギ塩、牛しぐれ煮、ちまき、赤飯、チキンライス、ドライカレー、というバリエーションがあるけど一度の注文で選べるのは2種類だから文句が言われにくい当たり障りのない具材に落ち着くのでしょうか。
でも食いたいぞ牛タンねぎ塩のおにぎりとか!
そんなポパイ好きは俺だけではなかった、というかまさかポパイで映画を一本作ろうなどと考える奇特な人がいたとは!
映画監督であり、数多の映画のメイキング映像を演出してきた志子田勇さんが監督して「ポパイ」の朝食づくりに密着したのが「映画の朝ごはん」なんですが、面識のないその映画になぜか呼ばれたのです。
で、私は何をするかというと、ドキュメンタリーだからポパイ役ではありません。私自身がポパイの魅力をカメラに向かってひたすら語るという、俺でいいのか案件であります。ポパイを語るのはもはや国際的映画監督の黒沢清さんや沖田修一さん、山下敦弘さん他いっぱいの映画人。そこに混じってなぜ俺が。しかも黒澤さんや沖田さんは志子田監督がメイキングでついた監督だから見知った間柄だとしても、俺だけ初めましてなんですけど!
というかどうして俺がポパイ好きだって知ってたのだろうか?もしかして映画界に轟き渡っているんだろうか?如何にポパイが素晴らしいかは映画を見ていただければわかる、というか俺も常々ずっと不思議だった麻薬的な魅力をもつポパイのおにぎりの味の秘密が暴かれるのも楽しみでならないのです。
言っちゃ悪いけど他のデリバリーできる弁当とそんなに見た目も献立も変わらないのに、何かが違う。白米の炊き方なのか?握り方なのか?巻きつけられた海苔なのか?その謎をカメラがばっちり捉えているはずなんですよ!
11月10日からキネカ大森で公開されます。
見終わったら絶対食べたくなるのでポパイ持参でご覧ください。
そして絶賛全国行脚で公開中の食・科学からクジラに迫るドキュメンタリー映画、「鯨のレストラン」にも出演中です。
ドキュメンタリーなので演技をするわけではありません。科学ではなく食、しかも食べるだけの立場から鯨を語るという、私なんかで本当に適任なのだろうか?ヘルシーな食材、鯨を食べた成れの果てがこの私でいいのだろうかと疑問を抱きながらの出演でした。見終わったら鯨と食べることで共生できる社会に感謝しつつ鯨を食べたくなる、そんな映画です。
さらに岩井俊二監督の最新作にして集大成との呼び声も高い「キリエのうた」こちらも絶賛公開中です。耽美でリリカルな美学に彩られた岩井ワールドに私が本当に必要なんだろうか?松村北斗くんの父親役がこの私でいいのだろうかと疑問を抱きながらの出演でした。
そんな私も岩井映画3本目です。岩井監督から生まれて初めてオールアップの花束を戴いて小娘のようにはしゃいで有頂天のワタシですが映画はすごく刺さり、一生大事にしたくなる映画です。
文・イラスト:樋口真嗣
さて、連載の途中ではありますが、告知がございます。
このたび、ワタクシ樋口、映画に出演することになりました。
しかも一本ではありません。
まず1本目は、映画の世界に足を踏み入れたら一度は必ず口にするであろう――「ポパイ」。そのポパイが劇場用映画となって公開されます。題して「映画の朝ごはん」。 映画づくりには切っても切れない関係でありながら一度も映画には写らなかった「ポパイ」。
業界最大シェアを誇る映画の朝ごはん弁当屋さんを追いかけたドキュメンタリー映画です。 8時前に稼働してもらうスタッフ――特に衣装メイクといった支度パートはもっと早い時間帯……始発で間に合うギリギリに、集まりやすいターミナル駅の近くで複数台の車両が停めやすい場所に集合してロケ場所へ向かいます。
古くは新宿スバルビル前、渋谷ならパンテオン前でしたが、今やスバルビルも渋谷パンテオンもありませんし、そんな駅前一等地に早朝とはいえ長時間停車するワンボックスカーやマイクロバスの車列を許容する世の中でもなくなり、流転を繰り返した果てに今では駅からちょっと離れたなぜか郵便局の前の荷下ろし可能なスペースが集合場所になっています。
朝食を買う時間も惜しんで集まって車両に乗り込むスタッフに配られるのが、プラパックに詰め込まれたおにぎり2個におかず一品。バランで仕切られて黄色い沢庵。割り箸袋には丸々太った「ポパイ」の文字。映画やテレビの撮影を仕事にしていると当たり前のように習慣化した風景です。
その朝食弁当を何時にどこの駅前の集合場所に何個届けてもらうか、前日の撮影の遅延によって移ろいやすいスケジュールを推し量りながら采配する製作担当者の心労もさることながら、ギリギリになってわかるその注文量に柔軟に対応するのが星の数ほどある弁当屋の中でも「ポパイ」だったのです。
近年では朝のロケ弁に参入する競合会社も現われ、若く野心的な製作部の間ではポパイだけでは飽きてしまうだろうという配慮から、ポパイ以外の勢力に発注するケースも増えてきました。
しかし、そこで明るみになるのはポパイとの違いであり、それはすなわちポパイの魅力なのだが、それがどうにもこうにも言語化できない。ロジスティックスの強靭さといった運用面だけではないのではないか?と思うあたりから、私自身ポパイがただの配達弁当屋として捉えられなくなり始め、今ではfacebookでポパイ部を主宰し、ポパイにまつわる最新情報を、映画界に草の如く放たれ潜むポパイ好きと情報を交換し合っています。
基本フォーマットであるおにぎり2個、おかず一品なんだけど、おにぎりの具材、基本はシャケ、おかか、梅干し、昆布、明太子あたりがランダムに入ってきていて、時々ツナマヨとかチキンライスとか今どきなラインナップも混じってくる感じで、おかずは唐揚げかゆで卵か卵焼きかウインナーのいずれか一品、時々コロッケ。
配達用の段ボールの中に入っていたリーフレットを見ると、おにぎりの具は明太子、鮭、しばちりめん、野沢菜ちりめん、高菜、おにぎり昆布(醤油風味)、きくらげ昆布(しそ風味)、すじこ(10月~6月の間)、葉唐辛子、わさびのり、ツナマヨ、ツナ醤油、紀州、カリカリ梅、おかか、わかめご飯、鶏飯、豆五目、あさり飯、ネギ味噌、大葉味噌、肉味噌、葉唐味噌、豚肉の生姜焼き、牛タンネギ塩、牛しぐれ煮、ちまき、赤飯、チキンライス、ドライカレー、というバリエーションがあるけど一度の注文で選べるのは2種類だから文句が言われにくい当たり障りのない具材に落ち着くのでしょうか。
でも食いたいぞ牛タンねぎ塩のおにぎりとか!
そんなポパイ好きは俺だけではなかった、というかまさかポパイで映画を一本作ろうなどと考える奇特な人がいたとは!
映画監督であり、数多の映画のメイキング映像を演出してきた志子田勇さんが監督して「ポパイ」の朝食づくりに密着したのが「映画の朝ごはん」なんですが、面識のないその映画になぜか呼ばれたのです。
で、私は何をするかというと、ドキュメンタリーだからポパイ役ではありません。私自身がポパイの魅力をカメラに向かってひたすら語るという、俺でいいのか案件であります。ポパイを語るのはもはや国際的映画監督の黒沢清さんや沖田修一さん、山下敦弘さん他いっぱいの映画人。そこに混じってなぜ俺が。しかも黒澤さんや沖田さんは志子田監督がメイキングでついた監督だから見知った間柄だとしても、俺だけ初めましてなんですけど!
というかどうして俺がポパイ好きだって知ってたのだろうか?もしかして映画界に轟き渡っているんだろうか?如何にポパイが素晴らしいかは映画を見ていただければわかる、というか俺も常々ずっと不思議だった麻薬的な魅力をもつポパイのおにぎりの味の秘密が暴かれるのも楽しみでならないのです。
言っちゃ悪いけど他のデリバリーできる弁当とそんなに見た目も献立も変わらないのに、何かが違う。白米の炊き方なのか?握り方なのか?巻きつけられた海苔なのか?その謎をカメラがばっちり捉えているはずなんですよ!
11月10日からキネカ大森で公開されます。
見終わったら絶対食べたくなるのでポパイ持参でご覧ください。
そして絶賛全国行脚で公開中の食・科学からクジラに迫るドキュメンタリー映画、「鯨のレストラン」にも出演中です。
ドキュメンタリーなので演技をするわけではありません。科学ではなく食、しかも食べるだけの立場から鯨を語るという、私なんかで本当に適任なのだろうか?ヘルシーな食材、鯨を食べた成れの果てがこの私でいいのだろうかと疑問を抱きながらの出演でした。見終わったら鯨と食べることで共生できる社会に感謝しつつ鯨を食べたくなる、そんな映画です。
さらに岩井俊二監督の最新作にして集大成との呼び声も高い「キリエのうた」こちらも絶賛公開中です。耽美でリリカルな美学に彩られた岩井ワールドに私が本当に必要なんだろうか?松村北斗くんの父親役がこの私でいいのだろうかと疑問を抱きながらの出演でした。
そんな私も岩井映画3本目です。岩井監督から生まれて初めてオールアップの花束を戴いて小娘のようにはしゃいで有頂天のワタシですが映画はすごく刺さり、一生大事にしたくなる映画です。
文・イラスト:樋口真嗣