高知を訪れた松尾貴史さんは、かねてから訪れたいと思っていた念願の店に行くことに。レンタルサイクルを漕いでへとへとになりながらたどり着き、やっとありつけた絶品カレーとは――。
高知県に来たのは何年ぶりだろうか。かねてから一度行ってみたいと思っていた高知市の海寄り、桂浜の近くにある「サザンスタイル」に、市内中心部にある高知市役所のレンタルサイクルを借りて足を伸ばしてみることにした。
何となく地図を見て、気軽に漕ぎ始めたら自転車のペダルは重いわ、人が歩く速度より少し早いくらいにしか進まないわで、何と1時間半もかかってしまった。
「自転車で?どちらから乗って来られたのです?え、高知城から!こんなところまでわざわざ!」
と労ってくださったのだけれど、私はまたこれでまた返却場所まで帰るのかという暗澹たる気持ちだった。
しかし、こちらのカレーは絶対に美味いはずだと決めてかかっていたので、気を取り直して注文を。小さめの器に入ったいろいろなカレーや野菜料理などを自由に組み合わせられるので、「セイロンチキン」「ケララチキン」「サンバル」「柚子の冷製ラッサム」をお願いした。朝飯を少し食べただけで遅めの昼食になってしまったので、ライスは「L」をお願いすることにした。
出来上がったプレートを見て、自然と顔がほころぶ。そうそう、これこれ、こんなものが食べたかった!という顔だ。自分では見えないが、そうなっていたはずだ。いかにも美味そうだが、実際に、美味い。そして、もちろん化学何とかや添加物は一切使われておらず、アーユルベーダの理念に則って調製されている。ご主人が言う「身体は毎日の食事でできています」は真理で、車のガソリンとは違って、人間の体は食べたものに入れ替わって排出されていく。食事を燃料として捉えるのは間違っているのだ。素晴らしい考え方だと思う。
セイロンチキンは文字通り、スリランカ風で、炒ったスパイスの香ばしさが効いている。ケララチキンはスパイシーさの中にもココナッツミルクの風味に安心感がある。サンバルは主役として扱うべき美味さで、健康的にライスにどしどしかけていただく。柚子のラッサムは、全くもって初めての味わいで、そのまま飲んでも、他のカレーに混ぜてかけても面白い。
ライスは麦をブレンドしたターメリックライスで、ぱらりとしているのでもたれずどんどん食べられる。その横に添えられた梅干しのアチャールは、タマリンドやレモンピールの酸味に負けない刺激と脇役力を発揮していていい箸休めになる。
とにかく、ものすごく、美味い。旨い。こんなに美味いのに体にいいとはどういうことだ。これを食べて気に入らない人がいたら、きっと友達になれないレベルの美味さだ。次に行ける機会を探したいが、なかなかチャンスはなさそうで寂しい。近所の人が羨ましい……。
文・撮影:松尾貴史