生食用牛肉の適格基準を一般的な肉屋がクリアーするのは不可能に近い。全ての様々な基準に適合するだけではなく、全ての検体で腸内細菌科菌群ゼロを実現しないと、生食用牛肉は流通できないからである。「ユッケを食べたい!」人の強い欲望が、不可能を可能にした。それが、JA全農ミートフーズの太宰府牛肉加工施設だ。
181人もの食中毒患者を出した痛ましい事件は、日本の牛肉生食をほぼ絶滅させた。当時、多くの国民が驚嘆したのは 『厚労省基準の生食用牛肉は一切出荷されてなかった』 事実。事件から5ヶ月後、基準は改定され、検査や設備やプロセス管理が厳格化され、さらに、違反の罰則も厳罰化された。その後、何度も基準や運用が変わり、レバ刺し禁止などにも波及し、日本の牛肉生食はほぼ消えた時期が続いた。
生食用牛肉を実現した施設は牛の 『と畜から加工・出荷まで』 を一貫して行う。一貫していないと、基準をクリアーできないとも言える。1日50頭〜70頭近くの黒毛和牛の食肉処理が可能で、ほぼ半数はA5ランク。そして、半分以上が博多和牛です。この錚々たるブランド和牛のモモ肉がユッケ用に加工される。
何と言っても、牛肉が新鮮!加熱する牛肉とは違い、熟成は御禁制。ユッケ専用の加工室は外部とはほぼ遮断され、生食用牛肉を作るためだけに使われる。
モモ肉のブロックを高温のオーブンで焼き、肉の表面から1cm以上を60度で2分以上加熱殺菌する。すぐに冷凍庫でマイナス15度以下に冷やし、半解凍状態のモモ肉の焼けた部分や余分な脂や筋を手作業で切り取り、美しい赤身だけの生食用牛肉に磨き上げる。さらに、細長く切り分け、ユッケのベストな食感と舌触りを実現する。
加工後、全頭分の菌検査の合格(菌ゼロ)を確認し、初めて出荷可能となる。つまり、厚労省基準の遵法生食用牛肉は、手間と適合施設と徹底的なゼロ菌管理の賜物。値段が少し高くなっても、家での生牛肉食を実現してくれたのは、実に喜ばしいことだ。
冷凍のユッケは必ず冷凍庫で保管する。食べる前にパックを冷蔵庫に移し、2時間を目安に解凍。パックは50g入りなので短時間で食べきり、再凍結はしない!この自宅ユッケルールを守れる人こそが真のユッケ愛好家。万が一、自己責任で食中毒を起こせば、ルールを守るユッケ愛好家に迷惑をかけることにもなりかねないからだ。
文:(株)食文化 萩原章史