dancyu本誌から
dancyu9月号「蕎麦呑みの名店」絶賛発売中!

dancyu9月号「蕎麦呑みの名店」絶賛発売中!

ちょっと旨いものを食べたいときは、いい蕎麦屋に行くのがお薦めです。だしのにおいがぷんと漂い、こざっぱりとした店内は、いつでも清潔&平和。一人でふらりと訪れて、居酒屋よりも寛げます。老舗から気鋭の新店まで、今行くべき蕎麦呑みの名店をご案内します。

風情を味わう

表紙
P22+23
P35
P64+65
dancyu2023年9月号
小学生の頃、父親に連れられて寄席で落語を聴いた後、浅草のどじょう料理の店で食事をしました。柳川鍋をつつきながら燗酒を呑む父を見て、なんだかいいな、と漠然と思いました。社会人になりたての頃、先輩に連れられて入った凛としたバーで、背筋がキリッと伸びて、しなやかな指でカクテルを美しくつくるバーテンダーに見入ってしまいました。ある鮨店で食事をしていたら、着物姿の初老の紳士がすっと入ってきて、握りを四、五貫つまむと、風のようにさっと店を後にしました。残された客たちは「格好いいね」とつぶやきました。かつて銀座にあった店は、畳敷きのカウンター(!)で、粋な着物を着たお母さんが、気風よく客の対応をしていました。おひたしやコロッケやおでんなど何気ない、でも上品な料理や空気感が好きでした。
こうして思い起こしてみると、風情を味わえる店、あるいは風情を感じさせる客が普通にいる店はいいなぁ、と改めて感じます。新明解国語辞典(三省堂)によると、「風情」とは、①その場の情景から感じられる、なんとも言えない風流な感じ。趣。②その場における、その人の様子。③来客の気持ちをなごませる何物か。とあります。具体的に説明できないけれど、いい雰囲気がある、そんな店でゆっくり呑むのは楽しいものです。別に特別な店でなくていいんです。たとえば近所の蕎麦屋で、ちょっと気の利いたものをつまみに呑んでいると、それを思いますよね。

dancyu編集長 植野広生
dancyu2023年9月号
dancyu2023年9月号
特集:蕎麦呑みの名店
A4変型判(120頁)
2023年8月04日発売/980円(税込)

写真:久家靖秀