編集部員は特集などの企画のため、日々試食に出かけています。それぞれが担当の店に行くので、みんなで一緒に同じ店に行くことはほぼないのですが、年に何回かは編集部の宴会を行います。酒呑みが多いので、当然ながら呑める店になるのですが、今回は蕎麦屋で呑もう!ということになりました。つまみが充実している店で呑み、さて締めに蕎麦を頼もうと思ったら、なんと……。
久しぶりの編集部飲み会は銀座「泰明庵」へ行きました。小体な店が多く昔ながらの銀座の雰囲気が残る路地の店で、蕎麦だけでなく、つまみが素晴らしく充実。店内にずらりと貼られた品書きを眺めているだけで楽しくなります。昼間に一人でふらりと行って、ちょっとつまんで軽く飲んで蕎麦をさっと食べて帰る、などといった楽しみもあるのですが、今日は人数が多いのでつまみをどんどん頼みます。空豆、おひたし、だし巻玉子、さつまあげ、天ぷら……ビール、日本酒、焼酎を次々にお代わりしていく編集部の面々。
蕎麦呑みはいいですね。一人でも寛げるし、少人数でも大人数でも楽しい。コロナ禍を経て、大勢の呑み会は避けたいという人と、少し落ち着いたからみんなで呑みたいという人に分かれたような気がしていますが、蕎麦屋はどちらの要望も満たしてくれます。
もちろん、居酒屋でもいいのですが、蕎麦屋には独特の心理的“結界”があって、他のお客さんとの“距離感”がきちんと保たれている気がします。これが、蕎麦屋ならではの気軽だけれど静謐な空気感を生み出しているのではないでしょうか?
それに、呑みと食事の境目が曖昧なのもいいですね。蕎麦だけ食べて帰る人がいれば、気の利いたつまみを頼んでゆっくり呑む人もいます。軽く飲んでしっかり蕎麦を食べるのもあり。使い勝手がいい、というのは蕎麦屋のためにある言葉のような気がします。
さんざん呑み食いして、そろそろ蕎麦で締めようか、ということになり。もりかかけか、鴨せいろや冷やしとろろもいいね、いや泰明庵名物の舞茸カレーそばで行くか……などと楽しく迷っていると、お店の人が「ごめんなさいね!今日、蕎麦が終わっちゃったのよ!うどんならあるけど……」
……。完全に蕎麦で締める頭と胃袋になっていた我々は、沈黙。いやいや、遅くまで飲み食いしていた我々が悪いんです。気を取り直して、かけうどんやおかめうどんを頼む者、親子丼やかつ丼を頼む者、あれこれ分かれました。
で、僕もうどんにしようと思ったのですが、品書を見ていたら“かつ煮”が目に飛び込んできました。おお、これにしよう。
もちろん、締めではありませんが、野菜や魚介のつまみばかりを食べていたら、肉っ気が欲しくなったのです。そして、つゆの味わいで締めるのは蕎麦呑みっぽいではありませんか!という勝手な理屈をつけて“かつ煮”を頼みました。
卵を纏い、だしをたっぷり吸ったとんかつは妙に安心する味わい。かつ丼の具とは異なる、香ばしさと柔らかさの正解がわかりにくい融合。このふわっとした味がたまりません。しかし、濃い目の味わいは酒を呼びます。また酒を追加してしまいました……。
※8月4日発売のdancyu9月号は、一人でも大勢でも楽しい「蕎麦呑み」の特集です!
文・写真:植野広生
久しぶりの編集部飲み会は銀座「泰明庵」へ行きました。小体な店が多く昔ながらの銀座の雰囲気が残る路地の店で、蕎麦だけでなく、つまみが素晴らしく充実。店内にずらりと貼られた品書きを眺めているだけで楽しくなります。昼間に一人でふらりと行って、ちょっとつまんで軽く飲んで蕎麦をさっと食べて帰る、などといった楽しみもあるのですが、今日は人数が多いのでつまみをどんどん頼みます。空豆、おひたし、だし巻玉子、さつまあげ、天ぷら……ビール、日本酒、焼酎を次々にお代わりしていく編集部の面々。
蕎麦呑みはいいですね。一人でも寛げるし、少人数でも大人数でも楽しい。コロナ禍を経て、大勢の呑み会は避けたいという人と、少し落ち着いたからみんなで呑みたいという人に分かれたような気がしていますが、蕎麦屋はどちらの要望も満たしてくれます。
もちろん、居酒屋でもいいのですが、蕎麦屋には独特の心理的“結界”があって、他のお客さんとの“距離感”がきちんと保たれている気がします。これが、蕎麦屋ならではの気軽だけれど静謐な空気感を生み出しているのではないでしょうか?
それに、呑みと食事の境目が曖昧なのもいいですね。蕎麦だけ食べて帰る人がいれば、気の利いたつまみを頼んでゆっくり呑む人もいます。軽く飲んでしっかり蕎麦を食べるのもあり。使い勝手がいい、というのは蕎麦屋のためにある言葉のような気がします。
さんざん呑み食いして、そろそろ蕎麦で締めようか、ということになり。もりかかけか、鴨せいろや冷やしとろろもいいね、いや泰明庵名物の舞茸カレーそばで行くか……などと楽しく迷っていると、お店の人が「ごめんなさいね!今日、蕎麦が終わっちゃったのよ!うどんならあるけど……」
……。完全に蕎麦で締める頭と胃袋になっていた我々は、沈黙。いやいや、遅くまで飲み食いしていた我々が悪いんです。気を取り直して、かけうどんやおかめうどんを頼む者、親子丼やかつ丼を頼む者、あれこれ分かれました。
で、僕もうどんにしようと思ったのですが、品書を見ていたら“かつ煮”が目に飛び込んできました。おお、これにしよう。
もちろん、締めではありませんが、野菜や魚介のつまみばかりを食べていたら、肉っ気が欲しくなったのです。そして、つゆの味わいで締めるのは蕎麦呑みっぽいではありませんか!という勝手な理屈をつけて“かつ煮”を頼みました。
卵を纏い、だしをたっぷり吸ったとんかつは妙に安心する味わい。かつ丼の具とは異なる、香ばしさと柔らかさの正解がわかりにくい融合。このふわっとした味がたまりません。しかし、濃い目の味わいは酒を呼びます。また酒を追加してしまいました……。
※8月4日発売のdancyu9月号は、一人でも大勢でも楽しい「蕎麦呑み」の特集です!
文・写真:植野広生