食堂呑みが好きです。定食のメイン料理や小鉢は酒のつまみになりますよね?そして、和洋中、多彩な品書きが並ぶのを眺めて「今日は何にしようかな」と迷う楽しみもあります。なかでも、100種類以上のメニューが並ぶ浅草の「水口食堂」では、いつもあれこれ迷う幸せな時間を過ごせるのです。
「水口食堂」は、テレビを観ながらちびちび呑んでいるおっちゃんの隣のテーブルで、家族連れがアジフライ定食やナポリタンを食べていたりする素敵な空間です。僕にとっては理想の食堂です。こういう雰囲気の中で夕暮れ辺りから呑むのは最高ですね。しかも、壁にびっしり並んだ品書きは和洋中、多種多彩。店主の水口淳さんも「数えたことがないから何種類あるかわかんねーや」というので、dancyu本誌で全種類撮影してみたら108種類ありました(季節メニューなどもあるので、品数は変動します)。これを眺めているといろいろ食べたくなってものすごく迷います。迷うけど楽しい!迷うのが楽しい!
ジャンルや形態によって異なりますが、「適度な選択肢」があるのがいい店だと思っています。たとえばカレーやラーメンなどでは、食べるものがはっきりしていた方がストレスなく注文できるので、種類が少ない方が魅力的に感じます。一方、居酒屋はメニューが多い方がいいと思いがちですが、多過ぎると店の思いが伝わりにくくなりますし(客がこの店で何を食べれば良いのか判断しにくくなる)、特に酒に合わせて考えようとすると複雑な順列組み合わせ検討しなければならなくなる可能性もあります。
しかし、食堂は無条件にメニューが多いと楽しい。酒との繊細な組み合わせを考えず、とりあえず食べたいものを頼んで、呑みたい酒を飲めばいい。いつも同じものを食べている人も、毎回異なる料理を注文する人も、みんな自由。そんな気楽な空間であることが町の食堂の良さだと思います。
「水口食堂」も毎回、迷います。将棋ではないけれど、いつも長考に入ることがわかっているので、とりあえず、まぐろぶつとビールを頼みます。まぐろぶつは名物のひとつで、ぶつ切りの赤身や中トロやトロがたっぷり入って800円とお値打ちです。これ一品でもずっと呑んでいられるくらい満足度が高く、僕も必ず頼みます。これをつまみながら、その後の展開を考えるのです。
熟考の末、この日は、生野菜、玉子焼き、お新香盛り合わせを追加。木のボウルにきれい盛られた生野菜は、りんごやオレンジも入った気分が上がる賑やかさ。玉子焼きはオムレツ状にふんわり焼かれ大根おろしでさっぱりと。お新香はしっかり漬かっていて酒が進みます。
これらをつまんでレモンサワーを飲みながら、もう少し食べたいなぁ、とさらにメニューとにらめっこ。生アジフライが食べたかったけれど、この日は入荷がないとのことで、ではやはり定番の“いり豚”にしておきましょう。これは豚肉と玉ねぎを炒めてカレー風味のソースを絡めた水口食堂オリジナル料理。ちょっとスパイシーでまろやかで濃厚なコクが、レモンサワーに合います。
さて、締めはどうしようか……迷っていると隣のテーブルにカレーライスが運ばれてきました。人間という動物は隣の客のカレーに弱いものです。「すみません、こっちもカレーお願いします!」
とろりとした昭和テイストの懐かしカレーは、白飯に抜群に合います。しかし、カレーだけ食べて酒のつまみにするのも好きなんです。で、余った白飯はお新香と福神漬けで食べる。完璧ですね。
あ、いり豚とカレーライス、カレー味で被った……やはり締めはチキンライスかナポリタンにするんだった……でもどっちがよかったかな……店を出るまで悩みは尽きません。でもそれが楽しいのです。食堂呑みは。
文・写真:植野広生
「水口食堂」は、テレビを観ながらちびちび呑んでいるおっちゃんの隣のテーブルで、家族連れがアジフライ定食やナポリタンを食べていたりする素敵な空間です。僕にとっては理想の食堂です。こういう雰囲気の中で夕暮れ辺りから呑むのは最高ですね。しかも、壁にびっしり並んだ品書きは和洋中、多種多彩。店主の水口淳さんも「数えたことがないから何種類あるかわかんねーや」というので、dancyu本誌で全種類撮影してみたら108種類ありました(季節メニューなどもあるので、品数は変動します)。これを眺めているといろいろ食べたくなってものすごく迷います。迷うけど楽しい!迷うのが楽しい!
ジャンルや形態によって異なりますが、「適度な選択肢」があるのがいい店だと思っています。たとえばカレーやラーメンなどでは、食べるものがはっきりしていた方がストレスなく注文できるので、種類が少ない方が魅力的に感じます。一方、居酒屋はメニューが多い方がいいと思いがちですが、多過ぎると店の思いが伝わりにくくなりますし(客がこの店で何を食べれば良いのか判断しにくくなる)、特に酒に合わせて考えようとすると複雑な順列組み合わせ検討しなければならなくなる可能性もあります。
しかし、食堂は無条件にメニューが多いと楽しい。酒との繊細な組み合わせを考えず、とりあえず食べたいものを頼んで、呑みたい酒を飲めばいい。いつも同じものを食べている人も、毎回異なる料理を注文する人も、みんな自由。そんな気楽な空間であることが町の食堂の良さだと思います。
「水口食堂」も毎回、迷います。将棋ではないけれど、いつも長考に入ることがわかっているので、とりあえず、まぐろぶつとビールを頼みます。まぐろぶつは名物のひとつで、ぶつ切りの赤身や中トロやトロがたっぷり入って800円とお値打ちです。これ一品でもずっと呑んでいられるくらい満足度が高く、僕も必ず頼みます。これをつまみながら、その後の展開を考えるのです。
熟考の末、この日は、生野菜、玉子焼き、お新香盛り合わせを追加。木のボウルにきれい盛られた生野菜は、りんごやオレンジも入った気分が上がる賑やかさ。玉子焼きはオムレツ状にふんわり焼かれ大根おろしでさっぱりと。お新香はしっかり漬かっていて酒が進みます。
これらをつまんでレモンサワーを飲みながら、もう少し食べたいなぁ、とさらにメニューとにらめっこ。生アジフライが食べたかったけれど、この日は入荷がないとのことで、ではやはり定番の“いり豚”にしておきましょう。これは豚肉と玉ねぎを炒めてカレー風味のソースを絡めた水口食堂オリジナル料理。ちょっとスパイシーでまろやかで濃厚なコクが、レモンサワーに合います。
さて、締めはどうしようか……迷っていると隣のテーブルにカレーライスが運ばれてきました。人間という動物は隣の客のカレーに弱いものです。「すみません、こっちもカレーお願いします!」
とろりとした昭和テイストの懐かしカレーは、白飯に抜群に合います。しかし、カレーだけ食べて酒のつまみにするのも好きなんです。で、余った白飯はお新香と福神漬けで食べる。完璧ですね。
あ、いり豚とカレーライス、カレー味で被った……やはり締めはチキンライスかナポリタンにするんだった……でもどっちがよかったかな……店を出るまで悩みは尽きません。でもそれが楽しいのです。食堂呑みは。
文・写真:植野広生