ときどき、鰻を食べたくなります。白焼きやうざく、う巻きなどで一杯やってから鰻重を食べる……たまらない!本当の旬は冬なのですが、暑くなってくるとスタミナ補給、という名目を言い訳のようにして鰻店の暖簾をくぐってしまいます……。
天然鰻の旬は脂がのる冬ですが、いまやほとんどが養殖もので、一年中出回るのであまり旬という感覚がありません。しかも、土用の丑の日に鰻を食べることをPRした平賀源内先生のおかげ(?)で暑くなるとなんとなく鰻を食べたくなりますよね。
というわけで、東京・神泉にある「いちのや」に行きました。川越にある本店にも行ったことがあるのですが、川越は昔から鰻店が多いのです。川越には鰻が獲れる河川があり、醤油蔵も多かったことから醤油を用いたタレで焼く蒲焼きや鰻重が名物になったそうです。
さて、まずは口の中で身がほどけるようにふっくらとした白焼きで一杯。白焼きと山葵(わさび)ってなんてこんなに合うんでしょうね。塩と山葵もいいのですが、山葵醤油も好きです。山葵を白焼きの上にちょんとのせて、端に醤油を少しだけつけて。白焼きのやさしい旨味と醤油のコクと山葵の鮮烈な香りが一体となって、ああ美味しい。酒が進む。
で、鰻重の登場です。蒲焼きの甘辛のタレは胃袋と本能をくすぐりますね。学生時代、鰻店でアルバイトをしていたときは、まかないのおかずでご飯を食べた後に、白飯にタレをかけただけの“タレかけご飯”を毎日のように食べていました。
蒲焼きは、まず半身になるように箸で縦に切って、半分を尻尾の方から腹方向に食べ進み、残り半分を腹方向から尻尾方向に食べます。こうすると、身が締まった食感からスタートし、しっかり脂がのった部分で味わいのピークを迎え、また身が締まった方向へ向かって食べ終えることになり、美味しさの山をつくれます。“クレッシェンド&デクレッシェンド食べ”と自分では呼んでいます。
さらに、山椒は鰻にふりません。鰻のうえに降ってしまうと、口に入れたときに山椒の強烈な香りが口中に広がり、山椒に支配されてしまうからです。そこで、鰻をめくってご飯に山椒をふり、また鰻をかぶせます。鰻とご飯の間に山椒がある状態ですね。これを口に入れると、まずは甘辛いタレと鰻の強い旨味、ご飯の甘味が広がり、その後から山椒の香りが追いかけてきます。この方が鰻の美味しさをしっかり味わえますよ。
(本当に美味しい天然鰻などの場合は、鰻の味をしっかり楽しみたいので、山椒をふらずに食べますが)
ちなみに、土用の丑の日は夏に一回訪れることが多く、2023年は7月30日ですが、暦の関係で夏の間に2回ある年もあります。ちなみに2024年は7月24日と8月5日と「一の丑」「二の丑」があります。だからといって、鰻を二回食べないといけない、ということではありませんが。
文・写真:植野広生
天然鰻の旬は脂がのる冬ですが、いまやほとんどが養殖もので、一年中出回るのであまり旬という感覚がありません。しかも、土用の丑の日に鰻を食べることをPRした平賀源内先生のおかげ(?)で暑くなるとなんとなく鰻を食べたくなりますよね。
というわけで、東京・神泉にある「いちのや」に行きました。川越にある本店にも行ったことがあるのですが、川越は昔から鰻店が多いのです。川越には鰻が獲れる河川があり、醤油蔵も多かったことから醤油を用いたタレで焼く蒲焼きや鰻重が名物になったそうです。
さて、まずは口の中で身がほどけるようにふっくらとした白焼きで一杯。白焼きと山葵(わさび)ってなんてこんなに合うんでしょうね。塩と山葵もいいのですが、山葵醤油も好きです。山葵を白焼きの上にちょんとのせて、端に醤油を少しだけつけて。白焼きのやさしい旨味と醤油のコクと山葵の鮮烈な香りが一体となって、ああ美味しい。酒が進む。
で、鰻重の登場です。蒲焼きの甘辛のタレは胃袋と本能をくすぐりますね。学生時代、鰻店でアルバイトをしていたときは、まかないのおかずでご飯を食べた後に、白飯にタレをかけただけの“タレかけご飯”を毎日のように食べていました。
蒲焼きは、まず半身になるように箸で縦に切って、半分を尻尾の方から腹方向に食べ進み、残り半分を腹方向から尻尾方向に食べます。こうすると、身が締まった食感からスタートし、しっかり脂がのった部分で味わいのピークを迎え、また身が締まった方向へ向かって食べ終えることになり、美味しさの山をつくれます。“クレッシェンド&デクレッシェンド食べ”と自分では呼んでいます。
さらに、山椒は鰻にふりません。鰻のうえに降ってしまうと、口に入れたときに山椒の強烈な香りが口中に広がり、山椒に支配されてしまうからです。そこで、鰻をめくってご飯に山椒をふり、また鰻をかぶせます。鰻とご飯の間に山椒がある状態ですね。これを口に入れると、まずは甘辛いタレと鰻の強い旨味、ご飯の甘味が広がり、その後から山椒の香りが追いかけてきます。この方が鰻の美味しさをしっかり味わえますよ。
(本当に美味しい天然鰻などの場合は、鰻の味をしっかり楽しみたいので、山椒をふらずに食べますが)
ちなみに、土用の丑の日は夏に一回訪れることが多く、2023年は7月30日ですが、暦の関係で夏の間に2回ある年もあります。ちなみに2024年は7月24日と8月5日と「一の丑」「二の丑」があります。だからといって、鰻を二回食べないといけない、ということではありませんが。
文・写真:植野広生