松尾貴史さんは大阪から東京への移動中に、ふと名古屋で途中下車することに。前から行きたかった店に訪れました。東京や大阪とはまた一味違うといわれる名古屋カレーの味とは――。
東京や大阪とは違うスパイス文化が育っている名古屋のカレー事情があると、漠然と感じてはいてもそれが何なのかは判然としていない。
その昔、東海テレビの高井一アナウンサーに教えてもらって訪問した、東桜にあった「カレーのmori」は、その独特の味わいと刺激、丁寧な深味にはまりこんで、この地に来るたびに通っていたが、閉店してしまったのは10年ほど前だろうか。店主がご高齢という事情があったと噂で聞いた。その後、誰かがレシピを受け継いだらしいという風説もあったが、消息は知れない。チェーン店とは違って、個人店が消滅してしまうと、その店のファンは「もう食べられない」という現実がなかなか受け入れられず、こんな噂を生んでしまうのかもしれない。
今回初めて伺った「あかつ亭」は、前々から気になっていた店のひとつだ。大阪から東京へ戻る途中、突発的に名古屋で途中下車して訪問することにした。
通称名駅(めいえき)の名古屋駅から歩いてみたら30分もかかってしまった。大須観音の近くなので当たり前なのだが、カレーを食べる前からいい汗をかいた。
到着したタイミングがよかったのか割りとすぐに着席できたが、私の後の人たちから並び始め、結構な人数の方が行列をなしていた。この場所には近年移転して来たようで、かつての店舗の写真がさりげなく飾られている。
給仕の女性は「ポケモン」のニャースの声で知られる俳優の犬山犬子さんのような愛嬌のある声で、丁寧に優しく接客中の様子、平和な雰囲気が心地いい。
今週のカレーはAの大根とサバのカレー、Bがムング豆と春野菜のカレー、Cは白いチキンカレー(コルマ)で、私はAとCの2種がけをオーダーした。
隣のお客さんが頼んでいたので便乗して、玉子のピクルスも。
サバの旨味は和を感じさせるスープの味と調和していて、手がかかっている雰囲気だ。
コルマは北インドの風味を感じる滑らかで優しい舌触りだ。クリーミーだけれどスパイス感は十二分に発揮している。
舞台の公演やテレビの仕事などで名古屋に来ることも多いので、再訪が楽しみだ。
文・撮影:松尾貴史