松尾貴史さんは行列で有名な荻窪にある店を訪ねることに。食べられるまで数時間待つことはざらという絶品カレーの味わいとは――。
ここの行列に何度も並んだ熟達の経験者の案内で、意を決して荻窪にやって来た。
いや、そんな大層な、という感じではあるけれど、その経験者の飯塚敦(通称はぴぃ)さんは前回訪れた時、ランチで並んで3時間近くの待ちだったとか。それも、初対面で言葉も通じにくいベルギー人の2人組とだったらしくなかなか間がもたなかったそうだ。
どうせならば、美味しいカレーとワインを合わせたいと思い、ディナーの開店を待つことにした。2時間は並ぶ覚悟で来たので、折りたたみの小さな椅子を持参したら、「本気ですね」と呆れられてしまった。
並んでいる間に外観を観察する時間は山ほどある。看板のロゴが可愛らしい。トマトに顔が施されていて、サンリオのキャラクター的なファンシーさだ。開店した時代を表している感じがする。
先客は4人。伸縮自在の椅子に立ったり座ったりで案外と快適だった。 18:30開店で1時間15分前に着いたのだが、おかみさんが18:10分、何かの巡り合わせで早めに空けてくださったので、幸運なことに1時間も待たずに入れた。経験豊富なはぴぃさんは「こんなにラッキーなことはないですよ」と驚いていたが、気候も良い時季に天気に恵まれ、本当にラッキーだった。
看板のライトがついた。あれ、前の人の連れがいつの間にか合流して私が6人目になっている。一人客も4人がけのテーブルに着くようで、私たちは残されたカウンター席へ。
それぞれエビスの小瓶を飲りながら、厨房の気配を楽しむ。
先に出てきた付け合わせの福神漬けと玉ねぎアチャール、これだけでつまみになる程うまい。玉ねぎの小片は炒めてあるのか炙ってあるのか、エッジに焦げ目がついていて香ばしい。
果たして到着したカレーはなんとも贅沢な香りがしている。ライスにはとろけるようなチーズが乗っていて、赤ワイン(コートデュローヌ)を反射的にオーダー。
はぴぃさんは仔牛のミルクカレー、私は和牛のカレー(辛口)を。
ミルクカレーを一口味見させてもらったら、すこぶるマイルドなのにスパイシー、魔法の香辛料使いである。
もちろんビーフも絶品、深い、滋味と香りと口中の風味。肉はブランデーに漬けているそうで、味わいで手のこんでいる感じが伝わってくる。
ご主人はずっと厨房で作業をされていて、時折り後ろ姿を拝見する程度だったが、それぞれのお客さんの退店時に「有難うございましたぁ」の声が聞こえる。
美味い欧風のカレーはワインに合う、あっという間にボトル一本が空いた。途中、玉ねぎアチャールが空になっているのを見て、おかみさんが追加してくれたのも嬉しい。
次はいつ並べるのだろうか……。
文・撮影:松尾貴史