松尾貴史のカレードスコープ
ワインが一本空いてしまう重厚な欧風カレー|松尾貴史のカレードスコープ(59)

ワインが一本空いてしまう重厚な欧風カレー|松尾貴史のカレードスコープ(59)

松尾貴史さんは行列で有名な荻窪にある店を訪ねることに。食べられるまで数時間待つことはざらという絶品カレーの味わいとは――。

思いもよらぬ幸運

ここの行列に何度も並んだ熟達の経験者の案内で、意を決して荻窪にやって来た。
いや、そんな大層な、という感じではあるけれど、その経験者の飯塚敦(通称はぴぃ)さんは前回訪れた時、ランチで並んで3時間近くの待ちだったとか。それも、初対面で言葉も通じにくいベルギー人の2人組とだったらしくなかなか間がもたなかったそうだ。
どうせならば、美味しいカレーとワインを合わせたいと思い、ディナーの開店を待つことにした。2時間は並ぶ覚悟で来たので、折りたたみの小さな椅子を持参したら、「本気ですね」と呆れられてしまった。
並んでいる間に外観を観察する時間は山ほどある。看板のロゴが可愛らしい。トマトに顔が施されていて、サンリオのキャラクター的なファンシーさだ。開店した時代を表している感じがする。
先客は4人。伸縮自在の椅子に立ったり座ったりで案外と快適だった。 18:30開店で1時間15分前に着いたのだが、おかみさんが18:10分、何かの巡り合わせで早めに空けてくださったので、幸運なことに1時間も待たずに入れた。経験豊富なはぴぃさんは「こんなにラッキーなことはないですよ」と驚いていたが、気候も良い時季に天気に恵まれ、本当にラッキーだった。

店内

看板のライトがついた。あれ、前の人の連れがいつの間にか合流して私が6人目になっている。一人客も4人がけのテーブルに着くようで、私たちは残されたカウンター席へ。
それぞれエビスの小瓶を飲りながら、厨房の気配を楽しむ。
先に出てきた付け合わせの福神漬けと玉ねぎアチャール、これだけでつまみになる程うまい。玉ねぎの小片は炒めてあるのか炙ってあるのか、エッジに焦げ目がついていて香ばしい。
果たして到着したカレーはなんとも贅沢な香りがしている。ライスにはとろけるようなチーズが乗っていて、赤ワイン(コートデュローヌ)を反射的にオーダー。
はぴぃさんは仔牛のミルクカレー、私は和牛のカレー(辛口)を。

カレー

ミルクカレーを一口味見させてもらったら、すこぶるマイルドなのにスパイシー、魔法の香辛料使いである。
もちろんビーフも絶品、深い、滋味と香りと口中の風味。肉はブランデーに漬けているそうで、味わいで手のこんでいる感じが伝わってくる。
ご主人はずっと厨房で作業をされていて、時折り後ろ姿を拝見する程度だったが、それぞれのお客さんの退店時に「有難うございましたぁ」の声が聞こえる。
美味い欧風のカレーはワインに合う、あっという間にボトル一本が空いた。途中、玉ねぎアチャールが空になっているのを見て、おかみさんが追加してくれたのも嬉しい。
次はいつ並べるのだろうか……。

看板

店舗情報店舗情報

トマト
  • 【住所】東京都杉並区荻窪5‐20‐7
  • 【電話番号】03‐3393‐3262
  • 【営業時間】11:30~13:30 18:30~20:30(売り切れ次第終了)
  • 【定休日】水曜 木曜 ほかに不定休あり
  • 【アクセス】JR「荻窪駅」より5分

文・撮影:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。