「カツカレーの日」認定記念セレモニーに参加した松尾貴史さん。カレーが歩んできたさまざまな進化を振り返り、改めてカレーのすばらしさを感じたようで――。
以前、「カレーは日本食か?」というテーマのトークショーに呼ばれたことがある。「いやいや、洋食だ」という意見は当然だろうと思う。スプーンやフォークで食べるのだから、「洋食」と捉えるのは当たり前かもしれない。
もちろん、「和食」かと言われれば、和風ではないのでそれは当たらないだろう。和風のカレーは存在するが、それは和風の具材を使用していたり、カツオや昆布、干し椎茸など、和風の出汁を使って作るカレーもあるので、今時はいくらでも和風のカレーは存在する。
「カレーは日本料理か」と言われれば、その条件として伝統的な和食の作り方が求められる気もするので難しい。しかし日本において、すでに「国民食」となったカレーが、長年にわたって独自の進化を遂げ、世界に類を見ない名品となっているのは事実だ。カレーの発祥がインドであるとか、イギリスを経由してもたらされた料理であるとかを言いはじめれば、どんな解釈も出来よう。あらゆる料理は、「どう伝わって来たか」というプロセスを追求し、そもそもを考えれば、いろんな主張があるだろうけれども、世界中の料理というものは「発展させたその土地の物」と言っても良いかもしれない。たとえば博多ラーメンは中国の料理か。冷製スパゲッティはイタリアの料理か。それぞれ、日本で考えられて各国に逆輸入されたという捉え方もできる。
さて、カツカレーは、そういう意味では純然たる「日本食」ではないか。客観的事実として、ライスの上にとんかつをのせてカレーのルーをかけるなどという料理は、日本でしか生まれ得なかったのではないかとすら思えるのだ。
その「カツカレー」のルーツはと言うと、プロ野球選手だった千葉茂氏が、所属チームのユニフォームを作っていた銀座の洋服店店主から紹介されて通い始めた銀座の洋食店「銀座スイス」だという。彼が「とんかつとカレーを一緒に食べたい」というわがままな注文をしたことから生まれたのだ。昭和23年(1948年)、今から75年も前のことだ。
後に東京新聞の記事で「鉛筆に消しゴムを合体させた人は巨万の富を得た。しかし、カツカレーを発明した私には1銭も入らない」との千葉氏の愚痴のような記事が載り、その事実を裏付けることにもなったのだ。
2023年から、「2月22日はカツカレーの日」と認定された。2月22日は、銀座スイスの開店記念日である。すでに「カレーの日」は1月22日と決まっているので、偶然にも2ヶ月続いて「22日」がカレーにまつわる記念日となった。
この日、「カツカレーの日」認定記念セレモニーに参加させていただく幸運に与ったのだが、銀座スイス・ヤエチカ店には、朝から集結したカレー好きの皆さんで大いに盛り上がったのだった。懐かしく伝統的なカレーのルーとライスの間に、香ばしく揚がったサクサクのカツレツがいる。これをスプーンで絶妙に扱いながら口に運ぶ幸福感は得難いものだ。この幸せを簡単に手に入れられる日本に住んでいて本当に良かったと感じる。まさに王道の、洋食屋さんのカレールーに、これまた王道のとんかつの香ばしさ、旨み。
長年の年季が入ったカツカレーは、他の追随を許さない、と言いたいところだけれど、これがまたカレーの懐の深さなのか、「みんな違ってみんな良い」をルーツの店が包容力で応援してくれている心意気がまた素晴らしいのだ。
文・撮影:松尾貴史