松尾貴史さんが念願かなって行くことができたという埼玉のカレー店。ゆったりとリラックスできる店内の空間でいただく、満足感たっぷりのカレーとは――。
以前ご紹介した下北沢の名店「茄子おやじ」の初代店主阿部さんが、2019年に埼玉県小川町で開店した、その名も「小川ぐらしの茄子おやじ」に、念願がかなってうかがうことができた。例えば池袋から東武東上線急行に乗れば、乗り換えなしの1時間と少しで到着できる。相当便利になっているので電車で行こうかとも思ったが、せっかくなので、近くにある「東秩父村和紙の里」(この地域は和紙が名産で、博物的展示や実際の道具を使っての和紙漉き体験ができる。和紙を使ったさまざまな製品の販売もしていて、折り紙作家の端くれでもある私としてはありがたい場所だ)に寄りたいので車で向かうことにした。それでも1時間半はかからないほどだろうか。駐車場もあるのでのんびりランチをいただくことにした。
以前、近所の古道具屋さんに併設されていた築100年以上の古民家カフェで間借り営業をしていた頃に来て以来なので、実店舗にお邪魔するのは初めてだ。
店内の雰囲気は申し分なく、アナログレコードとプレーヤーがこの店全体の核となっている、ある意味「祭壇」のようでもある。壁にはドライフラワーやアンティークのコリントゲーム、レトロを感じさせるポスターなどがさりげなく飾られ、これまた溶け込むような感じで控えめな電飾も煌めいている。手作り感満載のカフェ風の空間は、ここで日がな音楽を聴きながら読書でもしたくなる居心地の良さだ。
土地柄のゆったりとした感じに、地元の皆さんとの交流をしながらのリラックスできる営業形態は、ご主人の人柄にも通じるような気がする。
ビーフカレー、チキンカレー、やさいカレー、きのこカレーの4種類に、全部乗せに茹で玉子をトッピングしたスペシャルカレーがある。もちろん、せっかくなので(こればっかりだが)スペシャルをいただくことにした。カレーは、以前の下北沢時代の雰囲気をしっかり守りながらも、世界が膨らんだような感じの味わいだ。ライスの上に満遍なくかけられたカレールーは、ライスとカレーのどちらかが余ってしまったり、足りなくなてしまったりということがなくありがたい。余計なことを気にせず味に集中して食べ進み、ほっとしたところで美味しいコーヒーをいただいて話が弾む。
常連さんなのだろう、近所にアトリエギャラリーを持っておられる美人陶芸家の方が親切に和紙の里のことを教えてくれて、迷わずに立ち寄ることもできた。急に時間が空いた時、またふらりと行ってみようと思っている。
今度は電車で来て、ゆっくりビールもいただこうかな。
文・撮影:松尾貴史