編集長・植野が2022年に“印象に残った10皿”
2022年印象に残った10皿⑩「つろく」の"へしことごはん"

2022年印象に残った10皿⑩「つろく」の"へしことごはん"

和食の醍醐味はごはんである――そんな言い切りをしたくなるような、普遍的な美味しさに京都で出会いました。ごはんの美味しさを改めて感じただけでなく、酒肴との素晴らしい相性に心が踊りました。

炊き立て土鍋ごはんとへしこの感動的な美味しさ!

dancyu2023年1月号(2022年12月発売)の連載「一食入魂」で、放送作家の小山薫堂さんは「改めて白飯の美味しさを感じるようになった」とし、そのきっかけのひとつが京都・丸太町の「つろく」という和食店で食べたごはんだった、と言っていました。このごはんがとても気になり、さっそく訪れてみました。
カウンターで季節の美味しいものをあれこれ食べられる「つろく」のお品書きには、魅力的な酒肴が並んでいました。突き出しの鯖鮨のふくよかな美味しさに驚きつつ、そして迷いつつお願いしたのは、栗の唐揚げ、柿の白和え、なまこ、明石の鯛のお造り、殻ごと揚げたカニクリームコロッケ、明石の伝助穴子の白焼き、牛ヒレステーキ、さらに酒の肴としてへしこ。それもとても丁寧に、でもさりげなく食材の味を引き出してくれています。なんの違和感もない美味。酒と相まって気持ちよく堪能しました。

白ごはんとへしこ

そして、いよいよお目当ての“白ごはん”。土鍋で炊き上げたつやつやのごはんは、適度な歯触りで噛み締めると甘味を含んだ旨味が静かに広がります。強い自己主張や個性があるわけではないけれど、上質な香りと旨味がしっかり広がる心地よさ。やはり、ごはんは美味しい、と素直に思える味わいです。
さらに、残しておいたへしこを少しだけごはんにのせて、さらにわさびを添えてみました。……旨い!!! へしこの濃い旨味と塩気、わさびの鮮烈な風味がごはんの味をさらに引き立てます。ごはんだけでも美味しいと思いましたが、これは猛烈に旨い! いろいろ飲み食いしたのにお代わりして、また新たに感動しました。素朴ではあるけれど、本当の滋味。毎日食べたくなるような普遍的な美味しさでした。

白ごはん
へしこ

文・写真:植野広生