感動的に美味しい魚の一夜干しに出会ってしまいました。その味わいに驚きつつ、この一夜干しをつくっているところの風景が見たい、と思い実際に行ってみたら、そこは想像を遥かに超える素晴らしい魚天国でした……。
ある日、兵庫県の知り合いから荷物が届きました。箱を開けてみると、そこには魚の干物がぎっしり。ヤマガレイ、ノドグロ、ハタハタ、焼きギスも。ありがたい、と思いヤマガレイの一夜干しを焼いて食べてみたら……唸った。笑った。驚いた。塩加減と干し加減が絶妙で本当に美味しい! これまで食べてきた干物の常識的な旨さをポンッと飛び越えた感じでした。ノドグロもハタハタも旨い! これをつくっているところに行ってみたい、風景を見たい、と思うのとこの素晴らしい一夜干しを世の中の食いしん坊にもお伝えしたいと思い、現地に取材に行くことにしました。
兵庫県の日本海側、但馬地域には香住漁港や浜坂漁港などがあり、一年を通して豊富な魚介が揚がります。大型船による沖合底引き網漁が中心で水深100~800mの海底に網を入れます。これを挙げると季節の魚介が大量に獲れるのです。もちろん、あちこちに出荷するのですが、地元でも消費します。実際に訪れてみてわかったのは、地元の人はみなさん魚が大好きだということ。撮影のためもあり、香住町の「ひょうたん」という店で魚料理をいろいろつくっていただき、漁協の方々にも集まってもらったのですが(要するに宴会)、みんな毎日魚を扱ったり食べたりしていると思うのですが、「おお、これは旨いね!」「ノドグロ最高!」など、笑顔で本当に美味しそうに魚を食べるのです。
豊富な魚介を、一夜干しや焼き物にして(さらに冷凍保存して)、一年中いつでも食べられる魚食文化が根付いているのも、きっとみなさんが魚好きだから。だからこそ、塩の振り方、干し方、焼き方など、最高に美味しく仕上げる加工技術が発達したのでしょう。刺身、焼き物、煮物などさまざまな料理が出て、どれも美味しかったのですが、やはり感動したのはハタハタやノドグロなどの一夜干しでした。
干物ではあるけれど、ふっくらと上質で繊細な身の食感が心地よく、塩味をつけるのではなく旨味を引き出す程度の塩加減で、魚の旨味がやさしく凝縮しています。胃にしみわたるような美味しさなので、何尾でも食べられそう。そして、翌日も朝からハタハタの一夜干しでご飯を食べ、昼には海鮮丼を食べていました。人生で最も魚を食べた二日間かもしれません。でも、案内してくれた地元の方も、ずっと嬉しそうに魚を食べていました。やはり、但馬は魚天国でした。
左はハタハタの一夜干し、右はノドグロの一夜干し。絶妙の塩加減、干し加減で魚の旨味を最大限に引き出しているような味わい。魚好きの町ならではの知恵と技が根付いている。
ノドグロ、ヒラメの昆布締め、キンキとカマスの炙り、ヒラマサ、シロイカ、白バイ貝、アカエビ、シロエビ、ガラエビ……豪華絢爛な刺身盛り合わせやエビやカニ、ノドグロの煮付けなど、豊富な魚種の多彩な味わいを楽しめる。
文・写真:植野広生