編集長・植野が2022年に“印象に残った10皿”
2022年印象に残った10皿⑨「ビストロシンバ」の"タコと豚頬肉のコンフィ"

2022年印象に残った10皿⑨「ビストロシンバ」の"タコと豚頬肉のコンフィ"

あそこに行ける!と思っただけでワクワクする店があります。東京・銀座の「ビストロシンバ」もそのひとつ。店に入り、黒板のメニューを見ているとさらに高揚感が増し、悩んだ末に頼んだ料理を口に入れると、ワクワク感を上回る感動と衝撃的な美味しさが広がります――。

タコと豚頬肉が一体となった衝撃的な美味しさ!

ビストロシンバは、いい空気が流れている店です。程よい活気、スタッフの笑顔、メニューのワクワク感……美味しく楽しいオーラが漂っているのです。しかし、本当にいつも悩むんですよね、黒板に書かれたメニューを見ていると。ストレートに食べたい料理はもちろん、どんな味わいになるのか想像がつかない素材の組み合わせがさらっと書いてあったりするのです。
その日、目に止まったのは“タコと豚頬肉のコンフィ”というメニュー。……これは食べてみるしかないと注文しました。目の前に出てきた皿は……アートでした。赤をテーマに彩りと深みのコントラストとグラデーションを施したモダンアート! MoMA(ニューヨーク近代美術館)に飾っておきたいような料理を口に入れると、コンフィで絶妙のやわらかい歯応えの豚頬肉とタコの異なる旨味が渾然一体となって波のように押し寄せる! バルサミコソースの深いコクとパプリカ薫製パウダーの香りがその波をふわりと浮かばせる……。この衝撃的な美味しさは数日間、舌と脳裏に残っていました。

タコと豚頬肉のコンフィ

実は、この日はもうひとつ気になったメニューがありました。“馬肉のタルタル 丸ナス、焼きなす はまぐり”という、料理と食材が並んでいる一品。これも頼むしかありません。こちらも色合いがアート。食べると、一見、なんの脈絡もない(?)食材たちの旨味がなんの違和感もなく溶け合い、実山椒やエストラゴンの軽やかな風味も相まって、深い旨味へと導いてくれます。これも衝撃&感動の一皿でした。

肉のタルタル 丸ナス、焼きなす はまぐり

単に意外な食材を組み合わせるだけでなく、それぞれの食材の個性をしっかり出しながらも、最終的に一体化した美味しさに集約されています。いまのフレンチの素晴らしさ、菊地佑自シェフの凄さを改めて実感した夜でした。

文・写真:植野広生