フレンチがベースではあるけれど、さまざまな食材を組み合わせて独特の味わいを繰り出す店があります。ここに行くと、いつも意外な美味しさに驚かされるのです――。
「小泉料理店」には、毎回、美味しい驚きがあります。それは、塩ゆでしたフランスの空豆という意表をついたようなシンプルなつまみであったり(ゆでただけですが、食感や温度、塩味が絶妙です!)、季節の食材に和とフレンチの要素を混ぜ合わた意外性に富んだ一皿であったり、肉を焼いて濃厚なソースをそえるといった王道の味わいであったり。変幻自在、いろいろな角度に味が弾むような、でも食べ終えると味わいや余韻の方向性がしっかりまとまっている、なんとも不思議で美味しいのです。
この日も、ワクワクする料理が続きましたが、途中で出てきたスープに舌と心を奪われました。見た目は深いベージュでポタージュのような濃度を感じます。口に入れると、滑らかな口当たりの中に深いコクとしっかりした旨味、そして軽やかな甘味が広がります。蕪と酒粕のスープ、という説明を聞けばなるほどその通りなのですが、それぞれの要素を感じさせないくらいまったく違和感なく溶け合い、二つの旨味と甘味が癒合したこの味は、フレンチとか和食とかを超越した、官能の美味!
揚げ玄米と乾燥ブラックオリーブを砕いたもの、そしてオリーブオイルがふられ、香ばしさと風味がよりその濃厚な味わいを高めます。
延々と食べ続けていたいような、でも一口だけでも満足してしまうような、本能をくすぐられるような美味しさでした。
フランスの空豆、チーズと野菜と果物のサラダ仕立て、揚げなすに牡蠣のコンフィをのせたもの、太刀魚の焼き物に豆豉ソースをそえたもの、鴨のソテー……この日もワクワクするような皿が続きました。
文・写真:植野広生