松尾貴史のカレードスコープ
勝手に雄大な歴史を妄想してしまった神田のインドカレー|松尾貴史のカレードスコープ㊾

勝手に雄大な歴史を妄想してしまった神田のインドカレー|松尾貴史のカレードスコープ㊾

神田にある風格漂うカレー店。松尾貴史さんお気に入りの一軒なのですが、あれこれお店のストーリーを妄想していたのに、真実は違ったようで――。

清々しいスパイシーカレー

神田須田町、明治時代から続く蕎麦の老舗「神田まつや」の並びに、カレー店「トプカ」がある。車で来るときは、店の前にパーキングメーターの白枠があるので助かるが、停めることができるのは稀だ。
こちらも、カレー店としては随分と年季が入っているのだろうと思っていたら、その風格でまだ三十年経っていないようだ。店の前に立っているシェフ(だろうか)の木製の像がその世界を作っているのかもしれない。
入店時、先にメニューを選ぶのだけれども、昼時にレジのところで滞るのは申し訳ないので、シンプルに「インドポーク!」(インド風ポークカリー)というようにする。盛り合わせでA、B、Cがあるのだけれど、一度しか選んだことがない。

メニュー

程なくして、胡椒のきいた熱々のスープが運ばれる。ほんの少しとろみがついているので、この季節、冷めずにいただけるのが嬉しい。程なくして、インドポークがやってきた。サラリとした、ルーではない、そして旨味の強いスパイシーなグレイビーで、ライスにかければするりと染み込んでいく。私の好きな質感だ。豚肉はふんだんに入り、少し大ぶりに切ったじゃがいもや玉ねぎにも旨味が染み込み、ほろりとした甘味も感じられて、素晴らしいアシストをしている。

インドポーク

食べていると、もちろん汗が健康的に額に浮いてくる。これは暑い時期にも寒い時期にもありがたい。今世紀に入ってから閉店してしまった、日本橋室町にあった「インド風カリーライス」という名店のカレーにも通じる清々しい辛さのカレーだ。
特筆すべきは、カレーのベースは共通するものはあっても、それぞれのメニューの具材を変えているだけではなく、欧風、インド風の括りだけではなく、カレーによってそれぞれの味の調整をしているところだろう。
最初にこの店のことを知ったのは、スーパーマーケットのレトルトカレー売り場で見つけたレトルトカレーからだった。どこかノスタルジーを感じさせるパッケージの箱に、「トプカ」の文字を見て、「なかなか雄大な歴史を感じさせる名前だ」と感じたのは、今となっては赤面ものだ。トルコのオスマン帝国にある巨大建造物、「トプカプ宮殿」の名を冠していると思ったからだ。なるほど、インドとヨーロッパの中間のトルコ由来の名前なのかと早合点していたが、全く関係がなかった。実は、「トップ・クオリティ・オブ・カリー」の頭文字をとったそうで、随分とイメージの遠回りをしてしまったが、とにかく味は抜群に美味いので、神田界隈におでかけの節は、おすすめする。

外観

店舗情報店舗情報

トプカ
  • 【住所】東京都千代田区神田須田町1‐11
  • 【電話番号】03‐3255‐0707
  • 【営業時間】11:00~15:30 17:30~21:30 (L.O.) 土日祝日は11:30~18:00
  • 【定休日】なし
  • 【アクセス】東京メトロ「淡路町駅」より2分

文・撮影:松尾貴史

松尾 貴史

松尾 貴史 (俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト)

1960年5月11日生まれ。神戸市出身。大阪芸術大学デザイン学科卒業。 俳優、タレント、コラムニスト、“折り顔”作家など幅広く活躍。下北沢のカレー店「般゜若」(パンニャ)店主。著書に『人は違和感が9割』、『違和感ワンダーランド』、『ニッポンの違和感』(毎日新聞出版社)等がある。