dancyu1月号「いま、東京で行きたいのはこんな店です。」特集に掲載した“編集部員の校了めし”。誌面では、長時間の作業に追われる雑誌づくりの校了期間中に、どうしても食べたくなるご飯を6人の編集部員が紹介しました。dancyuWEBでは、それぞれのお店について詳しくご紹介します!
久しぶりに会う友人や家族とゆっくり食事をしたいとき、仕事に疲れ果ててパワーチャージしたいとき、頼りにする一軒がある。「ビストロ サンルスー」。地元・西荻窪にあるフレンチで、開店した1995年から通い続けている。
店を知ったきっかけは、朝日新聞に当時あった新店紹介の読者投稿欄だった。記事を読んだ翌日、吉祥寺に向かうバスの車窓で偶然店を見つけ、途中下車。ランチには間に合わなかったが、当日夜の予約を取って訪れたのだった。以来、四半世紀を超えるお付き合いである。
好きなメニュ-は多々あるが、中でも頼む頻度が多いのは、前菜としてチョイスできる冒頭の一皿「鴨むね肉の燻製と削ったフォアグラのコンフィ、クレソン、ロケットのサラダ」だ。濃緑のサラダの上に、まるで鰹節のようなひらひらしたベージュのかけらがたっぷり。口に運べば、濃厚なフォアグラと爽やかなクレソンやルッコラが一体となって、なんともいえない幸福感に包まれる。
この衝撃の料理を最初に私が食べたのは、20年ほど前である。一口食べると、削ったフォアグラが舌の上でじわじわ溶け、その初めての食感に驚いた。一皿わしわし食べると、自分の細胞たちがみるみる元気回復していくことがよくわかった。以来定番の、元気回復メシである。
「アイディアの元は、夫婦で行ったアルザスのレストラン。私が頼んだサラダに、鶏のテリーヌを凍らせたものがかかっていて、その瞬間、向かいの席で金子が『これ、もらった!』と叫んだの」と智恵美マダム。帰国後、シェフはそのアイディアをブラッシュアップさせて、店のメニューにつなげる。
「フォアグラに塩胡椒して、キャトルエピス、コニャック、マデラ酒などでマリネしてから、低温で火を通します。その後にマイナス25℃で凍らせます」と金子シェフ。凍らせる前にコンフィにする、手をかけているのだ。
この一皿を食べると、絶妙な取り合わせのフォアグラとサラダ野菜に加え、時折ご褒美のように味わう鴨肉の深い旨味も相まって、食べ進むごとにどんどん心が満たされていく。
この店の基本コース「ムニュグルトン」は、前菜、メインディッシュ、デザートがそれぞれ約15種類から選べ、6800円(料金がプラスされるメニューもある)。手書きのメニューはそれぞれ1ページ立てで構成され、選択肢豊富なのが嬉しい。食前にはアミューズや小さなスープが、食後にはプティフールや飲み物も付く。
メインディッシュの素材は、魚は毎日3種類ほど、肉は鴨、鳩、豚、牛、鹿など、その日によって種類は異なるが多彩な品揃えである。
デザートもよりどりみどりだが、人気が高いのが「栗のプティポ」。栗のプリン、アイス、バニラ煮、ピュレなどが小さいポット(プティポ)に盛り付けられ、栗のピュレと牛乳を泡立てたエスプーマが載る。
プティポはパフェ好きの金子シェフのスペシャリテで、春には「いちごのプティポ」、初夏には「桃のプティポ」もメニューオン。その登場を毎年心待ちにしているファンも多い。
「サンルスー」のお楽しみは、食後も続く。コースのデザートはチーズに変更することも可能で(別途の注文もOK)、オーダーするとかぐわしい香りとともに壮観のチーズプラトーが運ばれ、説明を聞いて選ぶことができる。
食後はエスプレッソや紅茶もあるが、マダム特製のハーブティーも名物。「心配事で落ち着かない」「消化を促す食後のリラックスに」「安眠」などの効果も示されていて、選ぶのも楽しい。私のお気に入りは、写真手前の「サマルカンド」で、食事の最後に異国の夢を見させてくれる。
レストランの語源は「人を元気にするところ」という。「サンルスー」に来るお客は、帰りはみんな笑顔。疲れていても、すこし気持ちがささくれだっていたとしても、食事をしてゆったり時間を過ごせば、帰りはみんな元気になる。ここは本物のレストランだ。
撮影:土居麻紀子 文:里見美香