「インネパ食堂」で飲む!
ディープでいて間口が広い"エスニックファミレス"の世界──雪が谷大塚「シッダールタパレス」中編

ディープでいて間口が広い"エスニックファミレス"の世界──雪が谷大塚「シッダールタパレス」中編

メニューを開いたら、エスニック料理の万華鏡だった──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第26回目は、インネパ店の多彩なエスニック料理で、また新たな“スパイス飲み”の地平を開拓しました。

近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。

※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。

案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。

今回のお店は、前回に引き続き、雪が谷大塚「シッダールタパレス」。実はこちら、“エスニック料理のファミレス”としても超楽しいお店でした。

アサリチリをナンで食べたら、なんとビックリなうまさだった!

前編で、お店の一番の売りである南インド料理でグイグイ飲み進めた3人ですが、実は他にも気になることがありました。それは、同店で提供している料理のジャンルが、やたらと幅広いこと。あらためて、そのラインナップの全貌をつかんでみることにしました。

外観
雪が谷大塚「シッダールタパレス」。
黒板メニュー
前編で紹介した南インド料理、チェティナードマトンカレー。

メニューをあらためて開いてみましょう。まずは、すでに堪能している南インド料理。お次は、各種カレーやタンドール料理などの北インド料理。続いてビリヤニ各種に、タイ・ベトナム料理。さらには揚げ春巻きや豆苗炒めなどの中華料理、チヂミなどの韓国料理、そして唐揚げ、ポテトフライ、枝豆といった日本の居酒屋メニュー。さらにさらに、数は少ないもののベンガル料理やパキスタン料理までも揃える。まさに店名通り、エスニック料理のパレス=宮殿といった趣です。

編集M
これだけ各国料理を揃えているのに、意外にもオーナーの出身国であるネパールの料理は見当たらないですね
田嶋
あ、唯一“モモ”だけがぽつんとあります! まるで進化の名残りのようで、無性に愛らしいです

そんなこんなで、各ジャンルの料理を試してみることに。まず到着したのが、ひよこ豆でつくった団子を揚げ、ヨーグルトソースに漬けた“ダヒバレ”です。具がソースに漬かりヒタヒタになっていて、噛むと甘酸っぱい汁がジュワッと口内に。かなり独特で、異国情緒があります。

ダヒバレ
ひよこ豆とヨーグルトでつくる、ダヒバレ。酒のつまみよりは、食後のデザートのほうが合うかも?
小林
よく北インドやパキスタンの屋台で売られているスナックです。揚げたての具に、ヨーグルトソースをジャッ!とぶっかけて出してくれるのが、うまいんですよ~

続いて到着したのは、“アサリチリ”。聞き慣れない料理名で、どこの料理か、にわかには判断がつきません。果たしてお味は?

編集M
あ、甘い。スイートチリソース的な甘辛な味つけに、アサリの旨味とニラの風味が合わさって、輪郭の立ったおいしさに仕上がっています。これはもしかすると、東南アジアと中華のエッセンスが混ざっているのかも
アサリチリ
アサリチリ。店主のお薦めで、プレーンナンもついてきました。
田嶋
自分のボキャブラリーにはない味ですが、不思議な中毒性があります。そして、ネパール人店長さんに勧められたとおり、インドのナンをスープにひたして食べてみると……確かに驚くほどうまい! なぜなんだ!(笑)

老若男女が楽しめる“エスニックのファミレス”

アサリチリにはワインが合いそうとメニューを見れば、ワインもなかなかの充実ぶり。各国の銘柄が赤・白ひと通り揃っています。スパイス料理のお供ということで、ここはインド産の白ワイン“グローバー・ナンディヒルズ・ソーヴィニヨン・ブラン”をボトルで注文。クセのないさわやかな辛口で、魚介系の料理に合います。

インド産の白ワイン、グローバー・ナンディヒルズ・ソーヴィニヨン・ブラン
インド産の白ワイン、グローバー・ナンディヒルズ・ソーヴィニヨン・ブラン。
店長のサプコタさん
ワインを注ぐ姿も様になる、店長のサプコタさん。

ここでもう一品、つまみが到着しました。タコなどの具材を小麦粉でまぶして焼いた“タコチヂミ”です。チヂミといえば日本でもおなじみの韓国料理ですが、インネパ店ではそうお目にかかれません。しっかり味付けがされ、そこにタレの甘酸っぱさと、タコのコリッとした食感が相まって、これまたすばらしき酒肴!

タコチヂミ
タコチヂミ。なんと韓国料理も食べられる!

それにしても、なぜ同店のメニューは、これほど幅広いのか。小林さんはこう考察します。

小林
日本人はどちらかというと、一つのジャンルに特化している専門店を尊ぶのに対し、ネパール人はバリエーションを増やすことに価値を置く傾向があります。インネパ店にタイ料理や日本の居酒屋メニュー、はたまたあんこナンなどの進化系ナンがあるのは、まさにその表れです。そうしたネパール人の思考を突き詰めたのが、この店のメニューかもしれません
田嶋
結果的に、“ファミレス”的な楽しさを味わえるお店になっているなと。エスニック料理を誰もが楽しめる形に変換しつつ、マニアに響くディープなメニューもある。(前編で)町中華に通じると言いましたが、同時に「エスニックファミレス」でもある、と。そう考えると、サイコーですね
小林
実際、店内を見わたすと、合コン風の若い男女のグループもいれば、夫婦や、子連れの家族もいる。小さな子供には、お子さまカレーもありますしね。そんなふうに、ちょっと珍しいアジア料理を、みんなで気軽に楽しむのにうってつけな店だと思います
編集M
そしてお酒の種類も豊富で、リーズナブル。ぜひ人数を揃えてワイワイ飲みにきたいです

それにしても、同店はなぜこんなにも幅広いメニュー構成が可能なのか。後編では、個性的な店の成り立ちに迫ります。

案内人

小林真樹さん

インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/

店舗情報店舗情報

シッダールタパレス 雪谷田園調布店
  • 【住所】東京都大田区雪谷大塚町11‐8
  • 【電話番号】03‐6881‐3198
  • 【営業時間】11:00~15:00、17:00~23:00 土日 11:00~~23:00
  • 【定休日】無休
  • 【アクセス】東急池上線「雪が谷大塚駅」より徒歩3分

文:田嶋章博 写真:小林真樹、田嶋章博、編集部

田嶋 章博

田嶋 章博 (ライター、編集者)

1976年、神奈川県生まれ。ファッション誌の編集を経て独立。ライフワークとしてカレーの食べ歩きと時々自作をしながら、WEBメディア、雑誌でカレー関連記事を執筆。 都内および近郊のダルバートを食べ歩いた「東京ダルバートMAP」を展開中。