箱の隙間から漂う素敵な香り……蜜の多い玉は断面の6割前後が蜜だという。小玉ながら、極めて美味な“葉取らずりんご”。そのルーツは51年前の1971年当時の南津軽郡柏木町のりんご園にあった。
1971年、18年間勤めた青森県りんご試験場長を定年退職した木村甚彌氏が、自らのりんご園で東光(ゴールデンデリシャスと印度の交配種)の種子を播種し、73本を育成し、1979年に選抜を行ったりんごに 『こみつ』 のルーツは遡る。原木・苗木・高接樹で特性調査を続けている中、1982年に木村氏は死亡。その後、弘前市の工藤末次・工藤清一・工藤練一氏らが高接ぎ樹を試作し、特性確認をしたと記録がある。
『こみつ』(品種名:こうとく)の遺伝子を解析すると、両親は 『ふじ』 と 『ロム16』 と考えられる。ふじは国光とデリシャスの交配種。ロム16はリチャードデリシャスと111号(国光とデリシャスの交配種)の交配種。試験場で生まれた品種ではないため、こみつの生物学上の出自は完全には解明されていないが、今から51年前の木村氏のりんご園に原点があり、様々な個性の強い品種の遺伝子が溶け合い、偶然生まれたのが 『こみつ』(品種名:こうとく)だ。
1985年に品種登録した 『こうとく』 は香りと甘さと豊かな果汁が素晴らしい反面、蜜の入り具合などの品質のばらつきが大きく、小玉であるが故に、一般市場では評価されることはなかった。農協が品種の切り替えを奨励したこともあり、10数年前には消滅の危機にあった。『こうとく』 の素質を高く評価していた数名の農家らが栽培技術を確立し、圧倒的な品質を実現したのが、JA津軽みらい石川基幹支店のこみつの会だ。
『こみつ』 は先ずは嗅覚で感じる。素敵な香りが部屋中に広がる。次に視覚。果肉の透き通る蜜が凄い。最後に味覚。程よい酸味に上質な甘さ。3つの覚を満たす究極のりんご『こみつ』は、一般店頭に並ぶことはほぼない、マニア垂涎のりんごだ。
文:(株)食文化 萩原章史