定番料理のおいしさと再現性の高いレシピに定評がある料理研究家、大庭英子さん。長きにわたり世の要望に応えたレシピを開発してきたベテランが、プライベートで実践する料理をラクにする工夫をまとめた一冊を上梓しました。――お腹がすく新刊を紹介するdancyu本誌の連載「今月のハラヘリ本」でご紹介した書籍を、ここでもう少し深く、詳しく、おいしくご案内します。
大庭英子/家の光協会 1,650円
和、洋、中、エスニック、ジャンルを超えて幅広く家庭向けレシピを生み出し続けている料理研究家の大庭英子さん。どの料理も自然体で、レストラン料理のようなインパクトのある旨さや派手さはないが、ふと思い出して食べたくなる味ばかりだ。
先生のレシピのすごさは、自分でつくってみるとよくわかる。撮影のときに先生がつくってくれたものに(ほぼ)遜色ないものが、自分の台所に現れるのだ。シンプルなものであれば、中学生の息子がつくっても(見た目はもちろん悪いのだが)十二分においしいものが完成する。読者がつくりやすいように、何度も練られたレシピにプロの矜持を感じる。
さて、つくろうと思えばどんな料理でもつくれてしまう、そんな人が普段は何を食べているのだろう。大庭先生の近著『68歳、ひとり暮らし。きょう何食べる?』は、そんな疑問をタイトルから直球でぶつけた一冊だ。
まず冒頭に「ひとりごはんを作りたくなる工夫」がいくつか紹介されている。毎日料理したい日ばかりではない、ひとり暮らしだから食材を選べない・余ってしまう、買い物に毎日行けるわけでもない……。多くの人が感じる悩みを自身も共有し、それに長年の経験から解決策を提案していく。例えば、「野菜を千切りにしておく」など料理をする気持ちのハードルが下がるような簡単な下ごしらえの提案や、余らせてしまいそうな素材の使い切り方など、ひとりでも実践できそうな料理のコツやレシピが並ぶ。自身が「60歳を超えてから意識して食べている」というたんぱく質がしっかり取れるメニューも多い。
それぞれの提案にやや長めの文章がついているのだが、そこに先生の料理への思いが詰まっていて説得力がある。ひとりだったらちょっと面倒だな、料理しなくていいかなと思いがちな気持ちをぐっと前向きに、料理を愉しい時間に変えてくれる。
書影の撮影:三浦英絵 文:編集部