新橋にある薬膳火鍋の店は、ランチにカレーの営業をしていて、松尾貴史さんのお気に入りの一軒とのこと。カレーとスパイスへの強い情熱と愛情を感じる味わいとは――。
新橋駅から、新橋柳通りを西へ向かい、「新橋柳通り口」の少し先、壁際の小さな看板と道端に置かれた店名の書かれた京行燈が目印の店、「らかんか」。2年ほど前、三味線奏者の師匠に教えていただき、一度でその味が好きになり通い始めた店だ。本来は薬膳火鍋の店で、夜のみの営業だったが、ご主人がスパイスとカレーが好きで仕方がないとかで、昼間にランチを始められた頃に伺って以来、タイミングが合えばうかがっている。
コロナ禍や間接的な要因もあり、一年近く前からランチは休んでいたのだが、待ちに待ったランチ再開の情報を得て、喜び勇んで再開初日に行ったら一番乗りだった。私に続いて、なじみらしき男性客と別口の女性客が入って来た。行列ができるのではと心配していったが、あまり広く宣伝していない再開だったようだ。
赤鶏カレーはアムチュールというマンゴーをパウダー状にしたものを使って、風変わりだが自然な酸味を醸し出している。爽やかで、ぐびぐびと飲みたいような旨さだ。
玉ねぎのアチャールには乳酸菌の風味がきいていてこれまた茶碗一杯分欲しいと思う。時間をかけて発酵熟成させているのだろう。追加でお願いした辛味のペーストは、ハリッサの赤いバージョンという雰囲気だが、旨味があるのでライスになすりつけても美味かった。
そのライスがまた、美味く甘みのある米でもちっとしていてここのグレイビーによく合っている。懇意にしておられる農家さんが作る古代米を使うこともあり、それもまた食感が変わって楽しい。
全体的に、とにかく素晴らしいのひと言。店主のカレーとスパイスに対する強い愛情を感じる深さがある。「東京で食べられるカレー」で、私にとって5本の指に入る絶品だ。
もちろん、夜の薬膳鍋も素晴らしく、ワインと合わせて大人の楽しみ方ができる。陳腐な言い方だけれども、「あまり人に教えたくない」の典型の店だ。
みなさん、これを読んだらすぐに忘れてください。
文・撮影:松尾貴史