季節の祝祭行事に合わせた“スペシャル定食”は、最高の酒のつまみになる!──街によくあるインド・ネパール料理店=インネパ食堂を巡って、スパイシーな料理をつまみに酒を飲み歩く連載企画。第22回目は、マニアがこぞって詣でる人気店の限定メニューで、またまたうまい酒を飲んできました。
近年、巷でよく見られるインド・ネパール料理店(※)やネパール料理専門店。そういったお店を酒場として楽しむ“インネパ飲み”が、酒好きの間でじわじわと注目を集めています。この連載ではインネパ飲みを実際に体験しながら、その魅力をお伝えしていきます。
※ネパール人が経営するインド料理店。通称「インネパ店」。街によくあるカジュアルな雰囲気のインド料理店の多くはネパール人が手掛けていて、それを示すようにネパール国旗が掲げられていたり、“モモ”などのネパール料理がメニューにあったりします。
案内役は、北は北海道・稚内から南は沖縄・宮古島まで、全国各地のインネパ食堂を食べ歩いた著書『日本のインド・ネパール料理店』が好評の、アジアハンター小林真樹さん。飲みのお供は、「東京ダルバートMAP」を編纂するカレー偏愛ライターの田嶋と、編集Mが務めます。
今回のお店は、前回に引き続き京成高砂「プルナディープ」。その名物である、お祭り仕様の“限定ターリー”とは、果たしてどんなものなのでしょう!?
店主お薦めのネパール料理とパキスタン料理を肴に、酒を飲み進めてきた3人。ここでいよいよ、当店の名物である“スペシャルセット”の登場です。
そんな“ティージスペシャルセット”を、さっそくいただいてみましょう。テーブルに運ばれてきた瞬間、プラオのスパイシーで華やかな香りに包まれ、気分が高揚します。メインのおかずは、山羊肉のセミドライカレー。山羊肉の少しクセのある風味とスパイスが相まって、濃厚なおいしさです。
副菜には、酸味と辛味がキリッと立ったマショウラ(ソイミート)のチョイラ(焼いてスパイスで和えたもの)に、やさしいダシのしみたユーガオカレー、マスタードオイルの効いたアル(じゃがいも)アチャールが。本格的なネパール料理でありつつ日本人の琴線を刺激する絶妙な塩梅で、また味の輪郭がくっきりし、どれもが振り切ったおいしさです。このセットを食べるだけで、当店になぜ多くの固定ファンが付くのかが、よく理解できます。
さて、そんなネパール料理やパキスタン料理を出す「プルナディープ」ですが、実はいま巷で人気の南インド料理も提供しています。次にやってきた“マドラスチキンカレー”が、まさにその南インド料理でした。
カレーリーフのエキゾチックな香りが強烈に立ち、口に運べばカシアシナモンやココナッツミルクの甘やかさ。これまたキーとなる風味がキリリと立ち、抗えないおいしさです。ライスとも合いますが、甘味の効いたナンと食べても絶好。
たたみかけるようにして、今度はマニアックなネパール料理が到着しました。山羊の舌をスパイスで炒めた“ジブロフライ”です。タンは圧力鍋で驚くほどやわらかくジューシーに煮込まれ、甘辛く味付けされています。そこにメティシードとクミンのスモーキーな香りがくっきり加わっていて、思わず酒どろぼう!と叫びたくなります。
決して有利ではない場所に店を構えながら、マニアックなボードメニューと、センスよく問答無用においしい料理、そしてSNSの積極活用により、多くの人を惹きつける京成高砂・プルナディープ。気になった方はぜひ、高砂へ「出稽古」に!
インド・ネパールの食器や調理器具を輸入販売する有限会社アジアハンター代表。インド亜大陸の食に関する執筆活動も手掛け、著書に『日本のインド・ネパール料理店』(阿佐ヶ谷書院)、『食べ歩くインド』(旅行人)などがある。http://www.asiahunter.com/
文:田嶋章博 写真:田嶋章博、編集部