瀬戸内海にある因島を訪れた松尾貴史さん。ここにきたからには外せないと、島一番のカレー店を訪問しました。そこで食べた地元の名産をふんだんに使ったカレーとは――。
その昔、村上水軍という海賊が「活躍」したことでも有名な、瀬戸内海の旧・離島、因島は、今では「しまなみ街道」という、島々を橋で繋いで、本州の広島県から四国の愛媛県に陸路で渡ることができるようになって、旅行客も自転車で移動しながら観光を楽しむ時代になった。「自転車神社」なる神様も祀られ、私も自転車ごと乗り込んで参詣させていただく幸運に与ったが、やはりこうなるとこの地で一番のカレーの名店に行かない手はないではないか。
島の土生(はぶ)という港のすぐ近くに、「しまなみカレールリヲン」という人気店がある。
店名の由来は、この地出身で、一時期東京で暮らした折りにインド人シェフと知り合いカレー作りの指導を受けた店主の宮脇ルリさんが、「出身地の因島に恩返しがしたい」という気持ちで開いた店だそうで、「ルリの恩返し」、略して「ルリヲン」なのだ。
広島の名産品・牡蠣や、地元の名物、ノンワックスレモン、因島玉ねぎなどをふんだんに使った地元愛が凝縮されたカレーをいただくことができた。全体的に優しい味ではあるけれど、スパイスの香りは潤沢、もちろん名産たちの旨味、酸味、甘味、香りも濃厚で、辛味が欲しい人のためにはカイエンヌペッパー、辛味オイルなども置かれているので、好みのレベルに調整することができる「痒い所に手が届く」仕様。
カチュンバル(スパイスのきいたピクルス)、ポテトのサブジ、パパドゥなどサイドメニューやおつまみも充実していて、私はついつい赤ワインを飲み過ぎてしまった。
もちろん美味さに定評があるからこその繁盛店なのだけれど、店主ご夫妻の人柄に惹かれて集まる客も多い様子だ。店内には所狭しと音楽やアート、サブカルチャー系のグッズ、書籍などが並んでいて文化度の高さもうかがえる。
しまなみ海道の橋のたもとに程近い海辺の田熊町がルリさんの生まれ育ったところだそうだ。ずっと「故郷の海の見える場所でカレーが作りたい」という長年の望みがあった。そして何と、探し続けて18年、その当地に移転先が見つかった。これから時間をかけて改装を手掛け、移転する計画だという。1年先か、さらに先になるのか現在は不明だが、次にうかがえるのはその頃かもしれないなあ。もちろん、チャンスがあれば現店舗にもまた。
文・撮影:松尾貴史